研究領域 | ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料・デバイス・反応プロセスの創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05061
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山田 鉄兵 九州大学, 工学研究院, 准教授 (10404071)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 熱化学電池 / ルテニウムヘキサイミダゾール錯体 / ルテニウムトリス(ビイミダゾール)錯体 / 熱電変換 / プロトン共役電子移動 |
研究実績の概要 |
本年度はプロトン共役電子移動(PCET)型の酸化還元反応を示すレドックス対を用いた熱化学電池の構築を行った。 PCETを示すレドックス材料として、ルテニウムトリス(ビイミダゾール)錯体およびルテニウムヘキサイミダゾール錯体の二つに着目した。ルテニウムトリス(ビイミダゾール)錯体は、弱アルカリ領域で1電子2プロトンのPCET反応を起こすことが田所らにより報告されている。この錯体を水とアセトニトリルとの混合溶媒に溶解し、バッファーと塩基を用いてpHを調整し、部分酸化して酸化還元平衡状態を形成した。電極間の温度差を与えて電圧測定を行ったところ、ゼーベック係数は最大で-2.9 mV/Kという高い値を示すことがわかった。さらにゼーベック係数のpH依存性と、Pourbaix図とから、プロトン脱離に伴うエントロピーがゼーベック係数に寄与していることが明らかになった。さらに溶媒中のアセトニトリルの割合を増加させることでゼーベック係数が-3.7 mV/Kまで向上することがわかった。ルテニウムヘキサイミダゾール錯体を用いて同様の測定を行い、やはり大きなゼーベック係数-3.7 mV/Kを得た。このゼーベック係数は、方形波ボルタンメントリーにおける酸化還元ピーク電位の温度依存性とも良い一致を示した。 このコンセプトの一般性と、溶解度の向上を目指し、バナジウム錯体を用いた系についても検討を行い、予備的に高いゼーベック係数が得られることを見出している。 また、PCET型の反応を触媒する酸化チタン電極を作製している山内教授および理論計算を行っている石元准教授との共同研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プロトン共役電子移動反応は、プロトンと電子が同時に動く化学反応であり、ハイドロジェノミクスの中でも興味深いテーマであると考えられる。我々はルテニウム錯体の熱化学電池を新規に作成し、高いゼーベック係数を得た。さらにこの高いゼーベック係数がプロトンの溶媒和エントロピーに由来するものであることを各種測定から明らかにした。ここまでは当初のもくろみ通り順調に進んでいる。 さらに、このPCETの原理を利用して、下記の二つの研究について、予備的ながら重要な進展が得られている。第一に、バナジウム錯体でも興味深い熱化学電池の構築が出来ることを予備的に見出している。このバナジウム錯体は安価で溶解度も高く、実用化の観点から大きな進展であると考えている。第二に、山内教授らとの共同研究により、有機PCET反応を用いることが出来ることも明らかになりつつある。この二つは、当初の計画を越えた進展であり、どちらも熱化学電池の実用化に向けて大きなメリットを盛っている点で、当初の計画以上の進展であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は次の3つの課題に取り組む。第一に、昨年度取り組んできたルテニウム錯体の熱化学電池について論文投稿を行う。投稿に必要なゼーベック係数、熱伝導度、イオン伝導度などを測定し、最適条件におけるZT値を算出する。第二に、ZT値の向上に向けた新たなPCET化合物の探索を目指す。ルテニウム錯体は溶解度が低く、実効的なキャリア伝導度の向上が困難である。またアセトニトリルなどの有機溶媒を混合する必要があった。そこで、PCETのゼーベック係数への寄与の一般性を明らかにするとともにさらなる溶解度の向上を目指し、バナジウム錯体などの新たなPCET錯体を設計し、それによる高いゼーベック係数と高いイオン伝導度の両立によるZT値の向上を目指す。第三に、共同研究を推進する。山内美穂教授、石元准教授と共同で、PCET反応を行うピルビン酸と乳酸のレドックスを酸化チタン表面上で行うことで、安価かつ生体適合性の高い材料を用いた熱化学電池の構築を行う。レドックス系と酸化チタンは山内教授に提供を受け、熱化学電池測定と各種パラメータの測定は山田が行う。さらにそのメカニズムの解明については石元が計算化学により明らかにする。
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