Pd触媒によるアルケンの水素化反応は工業的に重要で、より高活性な触媒設計のためには、反応機構の詳細を理解することは不可欠であるが、電子レベルでの水素の振る舞いが正確に理解されているとは言い難い。そこで本研究では、Pdナノ粒子における高活性化・精密制御された触媒反応場を設計するためにPdナノ粒子中での水素ダイナミクスの詳細な理解に向けた新規計算手法の開発とPdナノ粒子上での水素化反応について大規模高精度電子状態計算を用いて解析した。 まず、Pdナノ粒子という不均一反応場と水素の量子力学的振る舞いを高精度に記述する計算手法として“平面波局在混合基底電子状態計算手法(CPLB法)”の改良に取り組んだ。まず、CPLB法での解析的な構造最適化プログラムを実装した。また、CPLB法で用いる局在基底部分の電子状態計算に水素の量子力学的振る舞いを記述可能なnon-BO量子論を適用可能とした。本研究での開発手法により、不均一反応場での水素の高精度な取り扱いが可能となった。 さらに応用例として、Pdに対する水素吸着や水素吸蔵について解析した。特に水素と重水素の間でみられる同位体効果に着目した。開発したCPLB法を用いて解析することで、吸着・吸蔵過程における構造やエネルギーなどの差異を見出すことに成功した。さらに粒形2nm程度のPdナノ粒子に対するエチレン分子吸着についても解析したところ、不均一な金属ナノ粒子の吸着サイトにより、吸着エネルギーが大きく異なることが明らかになった。
|