電波および赤外線観測で切り拓く銀河系外縁部の星間化学

2019 年度 実績報告書

• 研究領域: 新しい星形成論によるパラダイムシフト：銀河系におけるハビタブル惑星系の開拓史解明
• 研究課題/領域番号: 19H05067
• 研究機関: 新潟大学
• 研究代表者: 下西 隆 新潟大学, 研究推進機構, 助教 (80725599)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: 星間化学 / 星間分子 / 原始星 / 星形成 / 銀河系外縁部 / アルマ / 有機分子

研究実績の概要

本研究は、銀河系外縁部の星形成領域に存在する星間物質の化学的性質を観測的に明らかにすることを目的としている。銀河系の外縁部は、その低い金属量環境のため、銀河形成初期の始原的な環境を残すと考えられており、過去の低金属量宇宙における星形成過程・物質進化過程を探る上で重要な研究対象である。このために本研究では、電波及び赤外線の波長域における星間物質観測を、外縁部の星形成領域に存在する原始星に対して行い、それらに付随する星間分子の化学組成を探っている。近年の銀河系外縁部に対する大規模な星形成領域探査により、外縁部には100以上の星形成領域候補が発見されている。まず本研究では、この中から、銀河中心より特に離れた銀河系最外縁部に位置する星形成領域を選定し、さらにその領域中でガスやダストに埋もれた原始星候補天体を赤外線測光データに基づき絞り込んだ。これらの原始星候補天体に対して、アルマ望遠鏡を用いたサブミリ波観測を実行し、原始星に付随するダストおよび星間分子に関する詳細なデータを得た。本年度はここで得られたデータの解析を集中的に進めた。結果として、銀河系外縁部において極めて豊かな化学組成を示す原始星を発見した。これは星形成の途上で出現するホットコアと呼ばれる暖かい分子ガスに包まれた段階の原始星である可能性が高い。当該天体には大型の有機分子をはじめとした様々な分子種が付随していることが明らかになり、銀河系外縁部の始原的な環境下でこのような化学的多様性が存在することは興味深い。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度の研究により銀河系外縁部のホットコア候補天体のアルマ観測データの解析はほぼ完了した。また、当該研究課題に関連する成果として、低重元素量系外銀河中のホットコアに関する論文を出版した。ここで発表された解析手法や理論的解釈は、同様の低金属量環境を有する銀河系外縁部の原始星の星間化学の理解を深めることに貢献することが期待される。以上のことから、おおむね順調に進展していると評価できる。

今後の研究の推進方策

次年度の研究ではまず、今年度にデータ解析を完了したホットコア天体の成果を論文としてまとめていく。既に得られているその他の銀河系外縁部の原始星候補天体に関するアルマデータに関しては引き続き解析作業を進める。続いて、より発展的な観測提案のために、他の外縁部星形成領域に対する原始星候補天体の選定作業を進め、新たな観測提案へとつなげていく。

研究成果

• [国際共同研究] Indian Centre for Space Physics(インド)
  • 国名: インド
  • 外国機関名: Indian Centre for Space Physics
• [国際共同研究] ハワイ大学/NASA(米国)
  • 国名: 米国
  • 外国機関名: ハワイ大学/NASA
• [雑誌論文] Chemistry and Physics of a Low-metallicity Hot Core in the Large Magellanic Cloud (2020)
  • 著者名/発表者名: T. Shimonishi, A, Das, N.Sakai, K.E.I Tanaka, Y. Aikawa, T. Onaka, Y. Watanabe, N. Nishimura
  • 雑誌名: The Astrophysical Journal 巻: 891 ページ: 1-24
  • DOI: 10.3847/1538-4357/ab6e6b
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Complex Organic Molecules in Star-Forming Regions of the Magellanic Clouds (2019)
  • 著者名/発表者名: Marta Sewilo, Steven B. Charnley, Peter Schilke, Vianney Taquet, Joana M. Oliveira, Takashi Shimonishi, Eva Wirstrom, Remy Indebetouw, Jacob L. Ward, Jacco Th. van Loon, Jennifer Wiseman, Sarolta Zahorecz, Toshikazu Onishi, Akiko Kawamura, C. -H. Rosie Chen, Yasuo Fukui, Roya Hamedani Golshan
  • 雑誌名: ACS Earth and Space Chemistry 巻: 3 ページ: 2088-2109
  • DOI: 10.1021/acsearthspacechem.9b00065
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] Astrochemistry at the Extreme Outer Galaxy (2020)
  • 著者名/発表者名: Takashi Shimonishi
  • 学会等名: Molecular gas observations toward the Local Group and the outer Milky Way
  • 国際学会
• [学会発表] ALMA View of Chemistry of Hot Molecular Cores at Low Metallicity (2020)
  • 著者名/発表者名: Takashi Shimonishi
  • 学会等名: East-Asian ALMA Science Workshop
  • 国際学会
• [学会発表] 星形成領域の星間氷観測 (2020)
  • 著者名/発表者名: 下西隆
  • 学会等名: 第36回Grain Formation Workshop
• [学会発表] SPICA observations of interstellar chemistry at low metallicity (2019)
  • 著者名/発表者名: Takashi Shimonishi
  • 学会等名: Exploring the Infrared Universe: The Promise of SPICA
  • 国際学会
• [学会発表] 広視野赤外観測による近傍星形成銀河内の原始星探査 (2019)
  • 著者名/発表者名: 下西隆
  • 学会等名: (近)赤外線広視野サイエンスワークショップ ~2020年代に我々はどう主導権を確保するか？
  • 招待講演
• [学会発表] NIR-MIR-Radio Spectroscopic Study of Astrochemistry at Low Metallicity (2019)
  • 著者名/発表者名: Takashi Shimonishi
  • 学会等名: Mid-infrared Astronomy -Past 20 years and Future 20 years
  • 国際学会
• [学会発表] Physics and Chemistry of a Low-Metallicity Hot Molecular Core in the LMC (2019)
  • 著者名/発表者名: 下西隆
  • 学会等名: 日本天文学会秋季年会