公募研究
太陽系の惑星が形成されてから数億年の間に,木星や土星などの巨大ガス惑星の軌道が大きく変わったという説が理論的研究から提唱されている。それに伴い,小天体の軌道が乱され,太陽系の外側にあった「冷たい小天体」が木星軌道上に引き込まれたと考えられている。冷たい小天体は氷などの揮発性成分を多く含んでいるため,大気圏突入時などに破壊されてしまい,隕石として分析することが困難である。このような脆いものでも,小惑星同士の衝突であれば衝撃が少ない。冷たい小天体が比較的丈夫な小惑星に衝突し,取り込まれ守られた状態であれば,隕石として地球に到達することができると期待される。実際に,冷たい小天体の候補となるような特異的な「捕獲岩」は複数の隕石から見つかっている。このような冷たい小天体の証拠を隕石中に見つけることができれば,理論計算に加えて木星大移動説への物質科学的裏付けとなり,地球惑星科学で最も重要な課題の1つである惑星系の形成過程に関する知見に一石を投じることとなる。本研究では,普通コンドライト隕石に含まれている捕獲岩試料について,有機物の分子構造と同位体組成に着目した分析を行った。炭素X線吸収端近傍構造(C-XANES)分析の結果,捕獲岩に含まれている有機物は水質変成を受けた炭素質コンドライト隕石に含まれる有機物と類似していることが分かった。また,捕獲岩試料の水素・炭素・窒素同位体及び元素分析の結果,これらの値は,冷たい小天体であるD型小惑星起源と考えられているTagish Lake隕石と類似しており,この捕獲岩も冷たい小天体由来である可能性が高いことが分かった。本研究の結果は,太陽系の外側由来の冷たい小天体が比較的太陽系に近い普通コンドライト母天体領域に取り込まれたことを示しており,巨大惑星移動説を支持するものである。
2: おおむね順調に進展している
上記の研究実績については査読付き論文を1報発表済みであり,おおむね順調に進展しているといえる。
上記の研究実績では1試料のみしか分析を行っていないため,今後は別の捕獲岩試料についても分析を行い,上記の結果を裏付けるとともに,惑星形成時の物質移動に関する知見を深める。ただし,現在,新型コロナウイルスの影響により,C-XANES分析を行うための放射光施設が閉鎖されている。秋からの再開が見込まれているが,もし再開されなかった場合は代替手法を検討する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Geochimica et Cosmochimica Acta
巻: 271 ページ: 61~77
10.1016/j.gca.2019.12.012
Meteoritics & Planetary Science
巻: 54 ページ: 1632~1641
10.1111/maps.13302