惑星形成の理解には、その現場である原始惑星系円盤の力学的および化学的進化の研究が不可欠である。本課題では、その両方に重要な役割を果たす宇宙線の伝播について研究した。荷電粒子である宇宙線は磁場に沿って運動するため、磁場による影響を明らかにした。 まずは、星間空間から原始惑星系円盤付近へ宇宙線が飛来する際の磁場による集中と反射の影響を評価した。そして、原始惑星系円盤表面では、その母体となる分子雲コアに比べ宇宙線密度が4分の1になることを示した。 次に、原始惑星系円盤では速度シアによって磁力線が方位角方向に引き延ばされる効果を考慮し、円盤内部における宇宙線密度を計算した。従来の、宇宙線が円盤表面から鉛直下向きに侵入すると仮定した見積もりに比べ、同じ深さまで宇宙線が侵入するまでに100倍程度遠回りすることが分かった。 さらに、この結果を用いて原始惑星系円盤における宇宙線およびその他の電離源による円盤ガスの電離率分布を計算した。これにより、半径~100au以遠では、従来の見積もりに比べ、電離度が一桁程度上昇することが分かった。また、~100auより内側の領域では、本研究で示した遠回り効果によって、赤道面に到達する宇宙線密度が著しく減少する一方で、円盤上空では電離率が上昇するという結果が得られた。 本研究で得られた円盤赤道面付近の原始惑星系円盤の電離率分布は、最近のアルマ望遠鏡による観測で明らかにされた宇宙線電離率分布と整合的である。また、我々の結果により、これまでの研究では両極性拡散によって磁気回転不安定性による乱流生成が阻害されると考えられていた円盤外側領域において、乱流が発達する可能性が示唆された。以上のように、円盤の力学的・化学的進化の理解に有益な成果が得られた。
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