公募研究
本研究では、分子雲におけるダストの成長・破壊・光散乱を数値シミュレーションするための計算環境を整え、分子雲での星間ダストの進化モデルを構築する事を具体的な目的としている。本年度は、高性能計算を専門とする同僚の協力を得て、本研究で使用する superposition T-matrix 法に基づく MSTM3 コードに改良を加え、光散乱数値シミュレーションの高速化を図った。その結果、従来の MSTM3 コードに比べ約 2.1 倍の計算速度向上が得られた。また、a1-term 法を導入した離散双極子近似の計算コード DDSCAT に研究代表者が改良を行った計算コードを用いて、分子雲で付着成長した大きなダスト凝集体(アグリゲイト)にも十分適応可能であることを確認した。従って、大きく成長したダストの光散乱シミュレーションを行うにあたって、MSTM3 コードではメモリ不足により計算できない場合でも、メモリを余り必要としない a1-term + DDSCAT コードを用いて研究を遂行できる。さらに、衝突によるダストの破壊をモデル化するために、ダストアグリゲイトの引張強度を計算できる解析的な式を弾性体理論および破壊力学に基づいて導出した。この理論式は、氷・シリケイト・有機物の粒子からなるアグリゲイトを用いた室内実験の引張強度、天文観測や探査機によるその場測定で得られた彗星ダストアグリゲイトの引張強度値をよく再現できる事を示した。また、ロゼッタ探査機によるその場測定で得られた彗星ダストアグリゲイトの構造・弾性的特性・電気特性をモデル化する事に成功し、原始惑星系円盤で付着成長したダストの進化過程や太陽系・デブリ円盤におけるダストの変成・破壊過程を理解する上で、本研究で得られた知見が役に立つことが証明された。
3: やや遅れている
コードの高速化に関して、予想していたよりも多くの時間をコードのバグ取りに費やした。また、新型コロナウイルス感染症対策による在宅勤務によって、計画していたよりも非効率的な研究の遂行を余儀なくされた。
今後は、星間ダストアグリゲイトの光散乱特性を superposition T-matrix 法および DDA a1-term 法により数値計算を実行する予定である。superposition T-matrix 法では、高速化した MSTM3 コードや FasTMM コードを用いる予定である。しかし、FasTMM コードは開発途中な為、既に確立された a1-term + DDSCAT コードを用いた計算もバックアップとして準備している。原始惑星系円盤やデブリ円盤への応用を考慮し、計算された光学特性の数値データ (散乱行列) のデータベース化を行い、インターネット上で公開する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件)
Planetary and Space Science
巻: 181 ページ: 104825~104825
10.1016/j.pss.2019.104825
巻: 172 ページ: 22~42
DOI: 10.1016/j.pss.2019.04.005