本研究は、Zr-96を用いたニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊事象を10の27乗年以上の半減期で観測するため、背景事象であるTl-208を95%除去するために使用するチェレンコフ光の位相幾何学情報である平均角を直接的に観測することを目的としている。まず、26本の光電子増倍管H3164-12を配置した半球状フラスコ型検出器HUNI-ZICOSを制作した。光電子増倍管を設置する治具は、切頂20面体(サッカーボール)の頂点の位置に光電子増倍管を挿入する穴を開け、内側に半球状フラスコをはめ込む形状のものを3Dプリンターで製作した。検出器内には、液体シンチレータの溶媒であるアニソールを充填し、Sr-90のベータ線や、Y-88からの1.836MeVのガンマ線を入射させ、100度後方にコンプトン散乱したガンマ線を検出することにより得られる1.484MeVの単一方向・単一エネルギーの電子から放射するチェレンコフ光を観測し、受光した光電子増倍管の位置から平均角を求めた。その結果、平均角は48度付近に観測された。シミュレーションを実施したところ平均角は40度付近を中心とした分布が得られた。一方、シンチレーション光によるシミュレーションでは、平均角は50度近辺に現れた。このことから、観測された事象はチェレンコフ光ではなく、300nm付近のシンチレーション光によるものと考えられた。そこで、半球フラスコの表面に400nm以下の波長の紫外線をカットするSC-37フィルターを貼り付け、チェレンコフ光だけを観測したところ、平均角は41度付近にピークが得られたことから、チェレンコフ光のシミュレーションは観測結果をほぼ再現していることがわかった。このことから、1MeV程度の電子が放出するチェレンコフ光でも位相幾何学的情報を有していることが明らかとなり、Tl-208背景事象を95%除去できると考えられる。
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