研究実績の概要 |
前年度までの研究において、励起により分子の持つ電子カイラリティ非対称度は著しく増幅するとの予言を行っていた。この予言に基づき、鏡像異性体分子の励起状態におけるエネルギー差について研究を行った。最もシンプルな鏡像異性体分子であるH2X2 (X=O,S,Se,Te) について、EOM-CC-FFPT (Equation Of Motion-Coupled Cluster-Finite Field Perturbation theory)という高コストだが高精度の計算を行い、励起状態における鏡像異性体分子間のエネルギー差について調べた。基底状態、第一励起状態、第二励起状態を調べ、全てのH2X2分子についてどちらからの励起状態では基底状態と比べて1から2桁大きなエネルギー差が得られることを示した。この成果を基に今後は鏡像異性体間のエネルギー差だけではなく、電子カイラリティの非対称度への計算へと発展させる。 前年度の研究でアミノ酸分子、アラニン、セリン、バリンが持つ電子カイラリティ非対称性はホモカイラリティを生み出す機構と合致するように偏っていることをハートリー・フォック計算を行って示していた。ただ電子カイラリティ非対称度の計算はかなりの精度が必要であり、我々が行ったハートリー・フォック計算では精度がぎりぎりであったため、新たに密度汎関数法を用いてより高精度計算で確認を行った。十分に高精度で収束した値を得られるまではいかなかったが、高精度計算に必要な計算条件を明らかにした。そして十分に高精度ではない中間結果として前年度の結果を支持する結果が得られている。
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