電弱スケールより軽い質量を持つ右巻きニュートリノを標準模型に加えたニュートリノ最小標準模型は標準模型が持ついくつかの問題を同時に解決する。この模型で期待される十GeV程度の質量を持つ右巻きニュートリノをLHCのATLAS実験の陽子衝突データを用いて探索するのが目的であった。この探索の解析グループで共同して解析を進めた。右巻きニュートリノは左巻きニュートリノを含む終状態へと崩壊するので、その質量を精度良く再構成できないと考えていたが、グループ内の学生が衝突点、崩壊点、右巻きニュートリノの運動量、Wボソンの質量の拘束条件から、右巻きニュートリノの質量を精度良く再構成できる方法を見出した。その原理的理解が得られていなかったが、私がシミュレーションを利用して、その原理を解明した。この解析は衝突点から離れたレプトンを用いるが、その良いキャリブレーションソースがない。私は検出器を通過する宇宙線ミューオンが使えないかと考え、宇宙線ミューオンデータやシミュレーションを調べてみたが、統計量が少なく、現実的には使えないことがわかった。衝突で生成された光子が検出器の物質と衝突し、電子陽電子対に転換する事象が背景事象になると考えたが、不変質量が小さく、取り除けることがわかった。しかし、複数の光子が電子陽電子対に転換し、異なる光子起因の(陽)電子(陽)電子対が一つの崩壊点を作り出してしまうと背景事象になってしまうことがわかった。異なる衝突点起因のミューオンでも同様のことが起こる。これらの数を推定する必要があるが、崩壊点を作り出してしまう確率が非常に小さいため、非常に多くの疑似データもしくはシミュレーションが必要になることがわかった。右巻きニュートリノの質量も再構成しなければならず、統計的に推定することもできず、対処が必要になった。 しかし、九州大学を退職したため、研究は途絶することになった。
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