研究領域 | ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 |
研究課題/領域番号 |
19H05111
|
研究機関 | 青森大学 |
研究代表者 |
緑川 章一 青森大学, ソフトウェア情報学部, 教授 (00265133)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 大気ニュートリノ / 大気ミューオン / ニュートリノ振動 / モンテカルロ法 |
研究実績の概要 |
ニュートリノの性質を明らかにすることは、万物の基礎理論の解明において重要な事はもとより、宇宙の発展の様子を知る上でも重要である。そのニュートリノの混合角や質量についての発見は、およそ30年ほど前に大気ニュートリノの観測から得られた。今日においてもニュートリノ研究における大気ニュートリノの重要性は言を俟たない。我々は、大気ニュートリノの異常現象の発見当時からニュートリノ質量を0とした場合の解析を行ってきた。この理想的な場合とスーパーカミオカンデによる観測との比較から現実のニュートリノの性質を導き出すことができるのである。実際、カミオカンデのグループは、この比較によりニュートリノの質量階層性および混合角の存在を明らかにした。しかし、ニュートリノは、直接には観測にかからない。スーパーカミオカンデが捕らえているものも、地中の奥深くに作られた水槽で大気ニュートリノによって生成された電子やニューオンである。この電子やミューオンの分布を精査することで、ニュートリノの混合角や質量差を導き出すことができるのである。 そこで、問題となる事は、直接測定ができないニュートリノのスペクトルをいかに精確に求めるかということである。陽子やヘリウムなどの宇宙線が大気を構成する原子核と衝突するときに、ニュートリノと共にミュー粒子が生成される。我々は、観測されたミュー粒子が大気ニュートリノフラックスの較正に利用できることを世界に先駆けて明らかにした。 この一連の研究は、本田守弘【東海大学・海洋学部・非常勤師】、笠原克昌【芝浦工業大学・名誉教授】、西村純【国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構・名誉教授】との共同でなされたものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大気ニュートリノフラックス計算には、様々な不確定性が存在する。その中で最も大きなものは、一次宇宙線と大気原子とのハドロン衝突の前方散乱断面積である。一次宇宙線のエネルギースペクトルは、最近のAMS2、その他の観測により測定誤差が5%以内にまで向上した。また、加速器実験を用いたハドロン相互作用のモデル構築の努力も進んでいる。 我々は、これらの結果を取り入れるとともに、ニュートリノと共に同じプロセスで生成され、観測もされる大気ニューオンフラックスを大気ニュートリノフラックスの較正に利用してハドロン相互作用の誤差を減少させる取り組みをおこなっている。その結果、大気ミューオンについての観測と計算との比較が大気ニュートリノスペクトル計算誤差の低減に有望であることを明らかにした。すなわち、大気ミューオンフラックスの観測値が一致するようなモデルでは、どのような相互作用モデルを選んでも大気ニュートリノフラックスは一致する。
|
今後の研究の推進方策 |
我々は、ニュートリノとニューオンは、同じハドロン相互作用によって生成されるので、大気ミューオンの観測は、大気ニュートリノの較正に役立つことを明らかにした。しかし、実際にニューオンのスペクトルからニュートリノスペクトルの情報を引き出すためには、更なる課題が存在する。それは、大気中の伝播の仕方が、ニュートリノとミューオンでは異なることに起因する。とくに、ニュートリノのエネルギーが低くなると、同時に生成されるニューオンのエネルギーも低くなり、大気との荷電相互作用によるエネルギー損失が大きくなる。これらを正確に取り入れて大気ニュートリノフラックスの推定を行い、到来方向別のスペクトラムの理論研究を進める。 本研究を遂行するにあたり、研究代表者と研究協力者とその役割を以下のように定める。緑川章一【青森大学・ソフトウェア情報学部・教授】研究代表者。研究全般の統括をおこなう。本田守広【東海大学・海洋学部・非常勤師】研究協力者。3次元宇宙線大気内伝搬シミュレーションコード開発をおこなう。笠原克昌【芝浦工業大学・名誉教授】研究協力者 高エネルギー宇宙線計算コードの拡張をおこなう。 西村純【国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構・名誉教授】研究協力者 MCの計算に対して解析的な側面から、検討、指針を与える。
|