国際宇宙ステーション搭載の高エネルギー宇宙線観測装置CALETは,2020年度も安定した軌道上運用を続け,観測データを蓄積した.それと同時に,さらに安定観測を継続してスペクトルの精度を向上させるため,軌道上運用の更なる効率化を実施した.軌道上CALETの長期安定運用は,統計が最も重要となる100TeV領域のスペクトルの精度を確保するために必須である. 2020年度の大きな成果として、CALETによる核子あたり2.2TeVまでの炭素及び酸素スペクトルの発表が挙げられる.本論文はPhysical Review Lettersに掲載された.核子あたり約200GeVの領域でスペクトルの硬化を3σ以上の有意性で観測した.宇宙線中の核子成分,特に超新星残骸にて加速されると考えられている,陽子,ヘリウム,炭素,酸素といった一次成分に関しては,統一的な理解が求められる.同一の検出器にて陽子に続きスペクトル硬化を検出したことは,銀河宇宙線核子成分の理解において重要な役割を果たす. CALETは電子観測に最適化されており,エネルギー測定のために検出器内でのハドロン相互作用を必要とする陽子やヘリウムの観測は,電子観測とは異なりよりシミュレーションに対する依存性が強く難しい解析となる.その意味で,ヘリウム,炭素,酸素を含む核子成分のビームテスト結果の解析を含み,シミュレーションの検証や詳細な系統誤差の評価を加えた炭素・酸素論文を出版できたことは,ヘリウムの解析結果出版に向けても大きな成果と言える. 陽子・ヘリウムデータ解析においては,特に最大の目的となる,100TeV領域における陽子ヘリウムスペクトルの冪形状を精度よく求めるため,イベント選別の信頼性,飛跡再構成方法の信頼性,モンテカルロモデル依存性,検出器内での相互作用位置の影響など,様々な系統的調査を実施した.
|