研究実績の概要 |
Takuya Hasegawa, Nagisa Hiroshima, Kazunori Kohri, Rasmus,S. L. Hansen, Thomas Tram, Steen Hannestad, JCAP 12 (2019) 012 において、インフレーション後の宇宙の最高温度(インフレーション後のインフラトン場の崩壊による再加熱温度T_RHと呼ばれる)が数MeVであるシナリオの場合、3種類のニュートリノが熱化せず、ビッグバン元素合成に抵触することを詳しく調べた。世界で初めて、ニュートリノ同士の自己相互作用の過程を正しく取り入れた計算である。 インフラトン場が100%電磁的な粒子に壊れる場合、再加熱温度について、T_RH > 1.8 MeV、寿命tauについてtau < 0.10 secという上限が得られた。一方、ハドロン的に壊れる場合は、T_RH > 5 MeV、寿命tauについてtau < 0.02 secという上限が得られた。また、Jeff A. Dror,Takashi Hiramatsu, Kazunori Kohri, Hitoshi Murayama, Graham White,Phys. Rev. Lett. 124, 041804 (2020)において、重力波を用いた大統一模型の検証方法を提案した。具体的には次のようである。ニュートリノ質量を生成するシーソー機構の元となる、重い右巻きニュートリノを含むようなSO(10)のような大統一模型(GUT)を考えた場合、その対称性が壊れる相転移時に生成されるコスミックストリングが生成される。そのコスミックストリングが作る特徴的な重力波のスペクトルを将来実験で検出することにより、このGUT模型を他の模型から区別できる可能性を明確に示した。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は、ニュートリノ振動により、ステライルニュートリノが初期宇宙につくられる量の再検討を行う。具体的には、初年度に作る予定のコードに、ステライルニュートリノへの振動の効果を加えることを計画している。先行研究では、再加熱温度が10MeVよりずっと大きいという極限での解析に相当する計算がなされている(S.Hannestad, I.Tamborra,T.Tram,arXiv:1204.5861)。これを、低い再加熱温度の場合でも議論できるコードを開発することに相当する。また、3.5keVライン放射というX線で観測される崩壊するダークマターシナリオなどから示唆されている領域も探っていく。研究計画どおりに進まない場合は、世界的なニュートリノ宇宙物理学の研究者であり親交のあるデンマークのAarhus大のSteen Hannestad教授のグループに応援を頼む予定である。
|