研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
19H05117
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長濱 裕幸 東北大学, 理学研究科, 教授 (60237550)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | キンクバンド / 流れ関数 / 重調和方程式 / 増分変形理論 / 微分幾何学 / Jaumannの応力速度 / 褶曲 / 座屈 |
研究実績の概要 |
本年度は地質体中や金属・高分子繊維複合体中でのキンク(キンク褶曲・キンクバンド)の形成メカニズムに関する国内・国外の研究動向をレビューし, 特異点を持つ微分幾何学的連続転位分布論(不適合条件・転位・回位・回位対を扱う非リーマン塑性理論)からキンク形成メカニズムの研究動向を日本金属学会基調講演などで講演した.また構造地質学分野においてRamberg(1963)によって議論されてきた粘性体層状構造(地層)の褶曲発生理論(流れ関数の重調和方程式に基づく座屈褶曲理論)に着目し,ミルフィーユ構造を持つマグネシウム合金を想定して,弾性体におけるキンク発生条件をA03領域長と定量的な検討を進めた.その研究成果の一部を日本金属学会2020年春期講演大会にて公表した.また本年度アウトリーチ活動として若手研究者に対する野外観察(埼玉県秩父郡長瀞周辺に分布する三波川変成帯片岩中に産するキンク褶曲の観察と埼玉県立自然の博物館訪問)を行った. 本年度の研究成果として,増分変形理論(Biot, 1965)の応力増分とJaumannの応力速度との対応を回転移動座標系に於ける時間微分の微分幾何学的視点から再構築した. 増分変形後の全応力は,増分変形による部分・回転による部分・初期応力からなることから,ある平衡状態から境界条件と物体内物性が変化し,次の平衡状態に移る褶曲過程を増分変形理論で定式化し,粘弾性(地質体)・弾塑性体(地盤)・金属・高分子繊維複合体中でのキンク発生条件と強化機構を明らかにした. また次年度に実施する岩石変形実験のための変形実験備品購入と実験準備を進めた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で示したように,本年度の研究成果として地質体中のキンク褶曲(キンクバンド)や金属・高分子繊維複合体中でのキンクの発生条件にも適応可能と考えられているBiot (1963, 1965)の増分変形理論の微分幾何学的理論背景を再考した.Biot (1965)が定義した応力増分は,Jaumannの応力速度に対応している.そこで有限変形理論における変形速度テンソルや時間微分について微分幾何学の視点から回転移動座標系を用いて再検討し,増分理論を再考した.増分変形後の全応力は,初期応力と純粋に増分変形による部分と回転による部分からなっている.したがって,ある平衡の状態から境界条件や物体内の物性が変化して次の平衡に移行する褶曲過程を表すことに適したBiot (1965)の増分変形理論は,粘弾性体とみなされる地質体中のキンク褶曲や弾塑性体(地盤)・金属・高分子繊維複合体中でのキンク座屈褶曲の発生条件の誘導にも適していることを明らかにした.また次年度に岩石変形実験によるキンク褶曲の発生条件を調べるため,変形実験備品の購入と実験準備を進めた. 研究目的の一つでもあるキンク強化についてはいまだ明確になっておらず,研究成果を今年度国際学術雑誌に投稿(あるいは掲載)していないため,現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している.」と判断した. 次年度に岩石変形実験を行うことにより,キンク褶曲(キンクバンド)の発生とその強化の条件を実験と微分幾何学の観点から明らかにすることを計画している.特に構造地質学的に重要な黒雲母などの層状ケイ酸塩鉱物の衝撃圧による塑性変形時のキンク褶曲及びRipplocationの形成機構を岩石実験により明らかにし,次年度から研究成果を国際学術雑誌に投稿(あるいは掲載)していく.
|
今後の研究の推進方策 |
構造地質学分野においてBiot(1963, 1965)の増分変形理論やRamberg(1963)によって議論されてきた層状構造を持つ粘性体(地層)の褶曲発生理論(変位ポテンシャルや流れ関数の重調和方程式に基づく褶曲理論)をより発展させる.さらに変位ポテンシャルや流れ関数の複素多様体(微分幾何学)を発展させ,粘弾性体とみなされる地質体中のキンク褶曲(キンクバンド)や弾塑性体(地盤)・金属・高分子繊維複合体中でのキンク褶曲の一般化された発生条件の誘導を試みる.具体的には,Cauchy-Riemannの条件式が成立しない局所的に特異点となる領域において,変位ポテンシャルや流れ関数の微分不可能(あるいは積分不可能)条件が転位・回位(回位対)・キンクに対応している.そのため連続転位分布論とキンク形成・キンク強化理論との関係を変位ポテンシャルや流れ関数の複素多様体(複素微分幾何学・一般二元複素変数関数論等)の視点で明らかにする.さらに変形実験備品購入と実験準備を進め,研究目的の一つでもあるキンク強化についての明らかにする. 次年度に岩石変形実験を行うことにより、キンク褶曲の発生と強化の条件を明らかにする予定で,特に構造地質学的に重要な黒雲母などの層状ケイ酸塩鉱物の衝撃圧による塑性変形時のキンク褶曲及びRipplocationの形成機構を岩石実験により明らかにする.本年度研究目的の一つでもあるキンク強化についての言及が僅かなであったが,キンク強化についての知見を整理し,次年度から研究成果を国際学術雑誌に投稿(あるいは掲載)していく.
|