金属材料系(主にMg合金系)に於ける長周期積層(LPSO)構造理論の高分子材料系への拡張の目的で,高分子ナノ粒子層を活用した,「ナノ・ミルフィーユ構造体」の創出と力学物性増強起源の解明を志向した. 高分子ナノ粒子は,気/水界面で単粒子膜を形成可能な疎水性高分子としてアタクチックポリスチレンを用いた.これを「軟質層」とする傍ら,「硬質層」として酸化物無機ナノ粒子の界面単粒子膜を調整した.具体的にはマグネタイト/四酸化三鉄ナノ粒子の最外層表面を長鎖脂肪酸で修飾し,その分散媒を気/水界面に展開することで,単粒子膜を得た.其々の単独粒子積層膜の層状周期をout-of-plane X線回折によって算出したところ,いずれも5 nmの値が得られ,この数値がほぼ粒子直径/単粒子膜厚みに等しいと考えられた. これら其々の単粒子膜をLangmuir-Bludgett法により交互に積層し,有機/無機の交互積層膜を創出した.これを「ナノ・ミルフィーユ」と称し,パラクリスタル解析や,Scherrerの式による結晶子サイズの算出から,その秩序性を見積もったところ,単独粒子膜の秩序と同等以上の周期性を有していることが判明した. 次に,予め基板半面に長鎖脂肪酸単層膜によるナノサイズの段差を導入し,これを座屈状の「キンク」構造を見做して,粒子積層を行った,キンク導入ナノ・ミルフィーユを創製し,座屈導入前後での秩序維持特性の評価を行った.この際,基板は簡便に延伸変形可能な樹脂製基板を活用し,キンク導入前後のナノミルフィーユを其々一軸延伸変形させた際の,層状周期の位置特性を評価した.この結果,キンクの導入が変形による層状周期性の低下を抑制することが明らかになった.これは,各層間の層間摩擦の影響によるものと判断され,高分子材料系におけるミルフィーユ構造形成による秩序維持が,界面摩擦の恩恵を受ける可能性が示された.
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