昨年度までの研究により,種々の鉄基層状組織のうち,Fe-Cr-C系で形成するδ-パーライトがラメラ配向を容易に制御できるモデル材料であると結論し,Fe-18%Cr合金(フェライト系ステンレス鋼)をδ域である1273Kで固体浸炭処理に供した場合に生じるδ→γ+合金炭化物の共析反応(δ-パーライト変態)について,その温度依存性や形成するラメラ間隔など調査した. 本年度は,これを踏まえて,浸炭反応によって生じるδ-パーライト変態について,走査電子顕微鏡(SEM),エネルギー分散型X線分析(EDS),電子線後方散乱回折(EBSD)を用い,その変態メカニズムの詳細を調査した.その結果,δ-パーライト変態によってδがγとM23C6炭化物に共析分解することを直接確認し,浸炭処理後の冷却中にγがマルテンサイト変態することでδ-パーライトがHv1000に近い高硬度を示すことがわかった.さらに,詳細な結晶方位解析により,冷却前のγとM23C6はcube-on-cube結晶方位関係を満足していることが明らかとなった.さらに,δ-パーライト変態界面におけるδ/γ/M23C6間に対して局所平衡理論に基づいた解析を行い,本実験におけるδ-パーライト変態がCrの長距離拡散を必要とするPartitionig Local Equilibriumモデルで整理できることを証明した.これにより,浸炭処理によって誘起されるδ-パーライト変態における炭素の浸炭層内拡散ならびにδ-パーライト変態の速度論を連立して記述することができ,δ-パーライト組織の相比ならびに相間隔を制御する技術を確立した.
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