研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
19H05122
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
斎藤 礼子 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (30225742)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノ構造制御 / 高分子 / ブロック共重合体 / シリカ / 複合体 |
研究実績の概要 |
互いに非相溶な高分子種が直線状に連結されたブロック共重合体の形成するラメラ構造を水平配向することで、低エネルギー低環境負荷にて、ラメラ型ミクロ相分離構造を得ることができる。本研究では、ナノ構造形成に適したブロック共重合体を合成し、ブロック共重合体の形成するラメラ型ミクロ相分離構造を鋳型とし、これを水平配向させ、シリカの前駆体であるパーヒドロポリシラザンを一方の高分子ドメイン中に偏在化させシリカ化し、低エネルギー(低環境負荷)でLPSOと同様な精密なミルフィーユ構造の創成とそのデザイン化を全体の目的とした。2019年度はシリカを選択的に導入する官能基として2置換型エポキシ基を高分子に導入し、選択的なシリカ導入に適したブロック共重合体の合成、その相分離構造制御、および、シリカの選択的導入のナノ構造への影響を検討した。高分子としては、部分エポキシ化ポリスチレンーポリブタジエン-ポリスチレン(E-SBS類)、ポリ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート)を一方のシークエンスに有するブロック共重合体類を合成し、エポキシ基の光架橋による高分子膜の固定、シリカの導入をおこない、高分子膜単体のナノ構造とその形成制御、および、ナノ複合体の合成条件とナノ複合体のナノ構造を検討した。さらに、ミルフィーユ構造を有するナノ複合体について、引っ張り試験より、単純な引っ張りとは異なり、あらかじめ低延伸を加えた試料にて、力学強度が増強することを発見した。さらに、内部のナノ構造変化の検討より、系が架橋されている、またはドメインがシリカ化されているため、低延伸ではドメインの配向は起きず、キンク状の構造が発生しており、通常のドメインの配向による強化ではなく、LPSOに観察されるキンク強化と同様の強化挙動が高分子でも発現する可能性を見出し、新たな材料設計の可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鋳型となるブロック共重合体の大量合成のため、種々の部分エポキシ化ポリスチレンーポリブタジエンーポリスチレンを合成し、そのミクロ相分離構造、および、ポリブタジエン部のシリカ化によるシリカ複合体の相分離構造(ミルフィーユ膜)を検討した。その結果、スチレン55~60%、シリカ組成5~20%でドメインが水平配向したナノ構造を有するポリスチレン-シリカナノ複合体の作成に成功した。この際、シリカの原料のパーヒドロポリシラザンと2置換型エポキシ基間には相互作用が存在し、これが選択的シリカ化の駆動力であることがFT-IRより明らかとなった。ホモ部分エポキシ化ポリブタジエンを合成し、カチオン光架橋を行い、架橋条件の最適化を行い、その条件に基づき、ブロック共重合体中の部分エポキシ化ブタジエンドメインをカチオン光架橋し、ナノ構造の固定に成功し、ミルフィーユ膜の延伸による配向を阻止することに成功した。高分子量のポリスチレン-ポリ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート)の合成では、種々のリビングラジカル重合を検討し、合成条件の最適化に成功しそのナノ構造を確認した。 得られた有機―シリカ型ミルフィーユ膜について、延伸前後で引っ張り試験を行い、また、それら膜内部のナノ構造を透過型電子顕微鏡より検討することで、膜の力学的強度、キンク構造形成を検討した。その結果、シリカ5%において、従来とは異なる複数の降伏応力の発現が観察された。さらに、あらかじめ低延伸した膜では、シリカ化および架橋により配向は起きないが、力学強度が約2.8倍に増大し、ナノ構造内にキンク状の構造発現が観察され、LPSOと同様のキンク強化機構の存在が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
ブロック共重合体を鋳型としてミルフィーユ構造を形成し、キンク構造の導入、およびキンク構造による構造強化について、以下の2点をもとに解明する。 A:ナノ構造形成に適したシークエンス(化学種)を有するブロック共重合体を合成し、シリカ前駆体であるパーヒドロポリシラザン(PHPS)との複合化により、ドメインの硬度を制御し、種々のドメインサイズ、種々のソフト部のガラス転移温度(Tg)のミルフィーユ構造体の合成方法の確立を目指す。特性解析として、Tg、動的粘弾性測定より、ナノサイズと力学特性の検討を行う。 このため、2019年に得た知見をもとに、ブロック共重合体―PHPS複合体作成時、ブロック共重合体の分子量を因子とし、複合体合成をおこなう。この際、有機ポリマー種とシリカの添加量を制御し、ソフト部、ハード部の力学的特性が制御された複合体を配向性に着目し作成し、ミルフィーユ構造の配向の全体の特性に及ぼす効果をTEMおよびその力学特性解析よりより検討する。構造を力学特性の関係を検討する。特にソフト部のTgと温度に着目し、検討を行い、モデル化を検討する。 B:種々のソフト部のガラス転移温度(Tg)の高分子を合成し、PHPSとの複合化により、ナノ複合体合成を目指す。ナノ構造、ソフト部のTg、測定温度を因子とし、複合体の力学的特性との関係を検討する。このため、製膜時、ブロック共重合体中のシリカ導入相を化学的に架橋し、シリカをシリカ導入相により強固に固定することで、有機相とシリカ相間の結合を強化する。 さらに有機部分がより高硬度の高分子についても、ブロック共重合体の設計、および、シリカとの複合化を行い、全体を総括し、ミルフィーユ構造におけるキンク構造による強化機構について、金属と高分子の比較を行い、高分子系における新たな強化機構の知見を得る。
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