研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
19H05123
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
石川 和宏 金沢大学, 機械工学系, 教授 (10312448)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 共晶組織 / 機械的性質 / キンク / 水素化 |
研究実績の概要 |
水素透過合金として用いることが可能なNb-TiNi合金およびNb-TiCo合金の微細組織とその安定性について調べた。Nb19Ti40Ni41合金は、鋳造状態でbcc構造のNb相と、B2構造のTiNi相から成り、層間が数百nmのミルフィーユ構造を形成する。この合金を室温で50%の圧延を施すと、キンクの形成を示唆する層状組織の屈曲が観察された。また、圧延後には硬度が大きく上昇した。圧延した合金を所定の温度で1時間の熱処理を行うと、650℃で硬度が圧延前の値に低下した。組織観察の結果、650℃の熱処理後も層状組織の屈曲は観察された。 同様の実験をNb-TiCo合金に対しても実施した。Nb30Ti35Co35合金も鋳造状態でbcc構造のNb相とB2構造のTiCo相からなるミルフィーユ構造を形成した。この合金を50%冷間圧延すると、Nb-TiNi合金と同様に層状組織の屈曲が観察された。また、圧延により硬度が大きく向上した。この合金を熱処理すると、温度の低下とともに硬度が低下し、約800℃で鋳造状態と同じ程度になった。熱処理後も層状組織の屈曲が観察された。 Nb19Ti40Ni41合金を400℃で水素化すると、Nb相は水素を吸蔵して大きく膨張するが、TiNi相はほとんど膨張しなかった。このような状態であるにもかかわらず、合金は破壊しなった。X線回折パターンを解析した結果、TiNi相中にひずみが発生していることが分かり、ひずみが導入されることで破壊を抑制していることが示唆された。水素化後の合金を観察した結果、水素化による層状組織の屈曲は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究領域では、キンクを形成する層状組織の探索を行っているが、本研究ではNb-TiNi共晶合金、Nb-TiCo共晶合金において、圧延によりキンク形成を示唆する結果を得ることができた。また、層の屈曲と硬度の関係を調べ、層の屈曲の安定性を評価することができた。また、キンク形成による合金の高強度化を定量的に測定する手法についても予備実験が終了し、信頼できるデータを得られる体制が整った。 Nb-TiNi合金の高温高圧水素環境下でのX線回折試験を行い、williamson-hall法にて合金内のひずみを定量的に評価し、TiNi相中に水素化によるひずみが蓄積することを明らかにすることができた。 以上より、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1.Nb-TiNiおよびNb-TiCo合金におけるキンク形成の実証 現時点では、Nb-TiNiおよびnb-TiCo合金において、圧延後に層の屈曲を観察できているが、それがキンクであることを実証する必要がある。圧延率を変えた合金を複数準備し、EBSD観察により相の回転が生じているか否かを明らかにする。また、同様の層状組織はV-TiNiおよびTa-TiNi合金でも得られることが分かっている。これらの合金についても圧延試験およびEBSD観察を行い。相の屈曲がキンク形成であることを実証する。 2.機械的性質の測定 Nb-TiNi合金は、Nb単相合金やTiNi単相合金より高い強度を有することが分かっているが、その原因については不明である。本研究では、鋳造材、圧延材、圧延・熱処理材の機械的性質を系統的に測定し、Nb-TiNi合金の強度を、①合金組成分、②層状組織形成分、③転位強化分および④キンク形成による強化分に定量的に分けることを行う。これにより、キンク形成による機械的性質の向上を定量的に考察が可能になる。
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