研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
19H05127
|
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
櫻井 伸一 京都工芸繊維大学, 繊維学系, 教授 (90215682)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ミルフィーユ構造 / ラメラ状ミクロドメイン構造 / キンク形成 / シェブロン構造 / 一軸延伸 / 応力-ひずみ試験 / 2次元小角X線散乱 / マイクロビーム |
研究実績の概要 |
硬軟2成分からなるラメラ状ミクロ相分離構造の一軸延伸によるキンク構造の発現とネッキングとの関係を解明する目的で、2次元小角X線散乱(2d-SAXS)パターンと応力の同時測定を行なった。その結果、延伸初期においてネッキングが生じ、試料全体に進展するまで応力はほぼ一定で変化せず、2d-SAXSパターンも平行ストリーク状のまま、ほぼ変化しないことがわかった。その後、ネッキング進展の終了とともに、応力が線形的に増大した。キンク形成はラメラ状ミクロ相分離構造の一軸延伸によって達成されるものの、延伸状態を保持しない限り、キンク構造を維持することはできないことがわかり、キンク導入によって高分子材料が強化されたかどうかを明確に示すためには、応力を除去したあともキンク構造を固定化する方法を確立しなければならないことがわかった。また、マイクロビームを用いた2d-SAXSパターンの測定を行なった結果、ネッキング領域ではどの部分においても同等に延伸されていると思われたが、ネッキング終端部の極近傍(境界線から160μmまでの領域)では、ラメラ構造はほとんど変形を受けておらず、さらにその先240μmまでの狭い領域でナノ構造が急激に変化し、最終的にシェブロン構造になっていることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近年、金属材料分野において、硬質相と軟質相が交互に積層しているミルフィーユ構造(層状構造)にキンク(結晶が急峻に折れ曲がった領域)を導入すると、材料が強化される現象が発見された。この原理を高分子系にも応用できるかどうかの検討が始まっており、結晶性高分子が形成する高次構造(結晶ラメラの積層構造;硬質相である結晶ラメラと軟質相である非晶相が交互に繰り返し、長周期構造を形成)に着目した研究が進んでいる。我々は硬軟2成分からなるラメラ状ミクロ相分離構造を形成するブロック共重合体に注目して研究を行なっている。ラメラ状ミクロ相分離構造は結晶性高分子が形成する結晶ラメラ積層構造より規則正しいミルフィーユ構造である。室温で軟質なゴム状ラメラと硬質なガラス状ラメラが交互に積層した構造を持つトリブロック共重合体フィルムを一方向に延伸すると、広義のキンク構造(シェブロン構造、あるいは、ヘリングボーン構造とも呼ばれている)が発現することが報告されており、キンク導入による材料強化の可能性が期待されている。本研究では、ラメラ状ミクロ相分離構造を形成するトリブロック共重合体フィルムを一軸延伸しながら、2次元小角X線散乱パターンの測定と応力の計測とを同時に行い、延伸によるキンクの形成と応力の変化の対応関係を解明した。研究の成果は現在、日本材料学会の学会誌「材料」の高分子材料特集号に掲載のための原稿投稿を済ませ、審査中である。このように当初の計画以上に成果が得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の成果から、キンク形成はラメラ状ミクロ相分離構造(無配向試料、配向試料にかかわらず)の一軸延伸によって達成されるものの、延伸状態を維持しない限り、この構造は実現しないことがわかった。シェブロンは、正確には、折れ曲がったポリスチレンラメラが分断されたようになっているので、キンク導入によって高分子材料が強化されたことを明確に示すためには、分断されたポリスチレンラメラを接合し、応力を除去した後もこの構造を固定化する方法を確立しなければならないことが示唆され、この点に注力して今後の研究を推進する。
|