研究実績の概要 |
本新学術領域で対象とするミルフィーユ構造は、強い原子間結合からなる硬質層と弱い結合からなる軟質層で構成された層状構造である。このため、ミルフィーユ構造には、硬質・軟質層間の原子間結合の不均質性に起因した弾性不均質性が発現すると考えられる。本年度は、まず、層状の異方的な結晶構造を有するTi3SiC2 MAX相・単結晶の弾性特性を単位体積当たりの価電子濃度を指標として解析した。その結果、Ti3SiC2 MAX相においては、同様の結晶構造を有する他のMAX相と比較して、単位体積当たりの価電子濃度が高く、それに起因してc軸方向のヤング率が他のMAX相と比較して高くなっていることが明らかとなった。この結果として、Ti3SiC2 MAX相・単結晶が異方的な結晶構造にもかかわらずほぼ等方的な弾性特性を示すことがわかった。 次に、第一原理計算を用いて、層状の結晶構造における層間の弾性不均質性の解析を行った。解析の結果、Ti3SiC2 MAX相は、層状の結晶構造を反映した層間の弾性不均質性を示すことが明らかになった。具体的には、C-Ti(1)およびTi(2)-C結合層は弾性的に強く、硬質層の特徴を示し、一方で、Ti(1)-Si結合層は弾性的に弱く、軟質層の特徴を示すことが明らかとなった。 Ti3SiC2, Ti3AlC2, Ti3InC2のMAX相を比較した場合、Ti3SiC2では、Ti(1)-Si結合が、Ti3AlC2やTi3InC2のTi(1)-(Al,In)結合に比べて相対的に強く、その結果として、Ti3SiC2ではc軸方向のヤング率が高くなっていることが明らかとなった。さらに、Ti(1)-Si結合の相対的な強さは、Siのp電子に起因するSi原子周辺の電子局在化等に起因していることを明らかにした。
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