研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
19H05129
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山崎 和仁 神戸大学, 理学研究科, 講師 (20335417)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ミルフィーユ構造 / LPSO相 / 回位 / 転位 / キンク構造 / 砂泥互層褶曲 / 微分幾何学 / 理論 |
研究実績の概要 |
LPSO型Mg合金のミルフィーユ構造のすぐれた材料・機械特性に関し,キンク構造が重要な役割を果たすことがこれまで指摘されてきた。これらの理論的側面については,回位とキンクバンドの関係が,幾何学的適合条件(rank-1接続)に基づき議論されている(Inamura, 2019)。また,適合条件が破れた場合(いわゆる不適合条件)とキンク変形についても議論されており( Hasebe et al., 2014; Kitano et al., 2018),不適合条件と回位との関係を論じることは,LPSO相におけるキンク変形を解析する上で重要な基礎研究といえる。 また,従来の不適合条件の考察はいわゆる歪み空間において行われてきたか,本研究では,それに双対な応力空間(Yamasaki and Nagahama, 1999; 2002)における不適合条件を考察する。これは,回位を伴うキンク変形という現象の考察を,一般化された応力関数というより動力学的な領域にまで視点を拡張して行うことを意味する。 最初に歪み空間における不適合条件を考える。これは,変形理論における基本的物理量:歪み,転位および回位が,微分幾何学の基本量:計量,捩率および曲率にそれぞれ対応する空間である。この場合,不適合条件は歪み空間の計量と曲率を直に結びつける関係式に対応するので,それを微分形式の理論に基づき考察した。この式を物理量だけで書き換えると既存の不適合条件と一致する関係式が得られた。この不適合条件に,歪み空間における欠陥場(転位と回位)の運動学的方程式と保存則を代入すると,不適合条件と欠陥場との関係がより明確となった。すなわち,いわゆる回位に相当する欠陥場には,回転対称性の破れによるものと,並進対称性の破れの空間勾配によるものの2種類が存在可能であり,その関係を記述するのが上記の不適合条件であることがわかった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の当初の目的は歪み空間における欠陥場とキンク構造との関係を明らかにすることであったが,解析の過程で双対な空間である応力空間における解析も行えたのでそれを以下に要約する。 空間の基本的幾何学量には,応力関数,偶応力および応力が対応する。いわゆる適合条件は歪み空間における条件であるので,それが応力空間では何に対応するのかは興味深い問題である。回位と不適合度の関係式を,双対な場合に書き換えると,応力と応力関数との一般的な関係式が得られた。この関係式の対角成分だけを抽出し,かつ2次元の場合に縮退すると,よく知られたAiryの応力関数が得られた。従来の解析では,転位密度とAiryの応力関数の関係に基づくものがほとんどである。本研究の結果は,不適合条件が存在する場合(つまり回位場が存在する場合)の解析には,Airyの応力関数だけではなくそれを一般化した応力関数(三次元の場合に拡張し,かつ非対角成分も考慮に入れた応力関数)も必要になることを示唆する (Yamasaki and Hasebe, 2020, accepted in press)。実際,Hasebe et al., (2014)においては,転位と局所的回転場の解析に,Airyの応力関数を三次元の場合にまで拡張したものが有用であることが指摘されている。
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今後の研究の推進方策 |
現在,以下のような結果が得られている。(1)歪みを計量とする歪み空間における不適合条件を考察した。このとき,不適合条件の存在は,2種類の回位場(回転対称性の破れと並進対称性の破れの空間勾配)の存在を意味する。(2)歪み空間に双対な応力空間における不適合条件を考察した。このとき,不適合条件には,応力関数の一般的な定義式が対応することがわかった。これは,回位場が存在する場合(すなわち不適合条件が存在する場合),従来のAiry応力関数による欠陥場の解析を拡張する必要性を示唆する。 上記の解析結果は,平衡状態におけるものである。一方,A01班が指摘してる通り,LPSO型Mg合金のミルフィーユ構造においては,熱処理が重要な役割を果たしている。地質学においても,岩石(鉱物)は熱変成という「熱処理」をうけているが,その組織は非平衡状態(あるいは準安定状態)にあることが知られている。ただ,本プロジェクトにおいては,ただの非平衡組織を解析するだけでは不十分であり,他班および本班で指摘されているようにキンク構造などを考慮しなければならない。そこで,今後の研究課題として,非平衡状態におけるキンク形成(座屈現象もふくむ)に関する解析を進めていく予定である。キンク形成(座屈現象)は,非線形系における解の分岐現象の一種である。そこで,その非平衡解析の手法としては,最近,筆者たちが開発している非平衡分岐理論を適用する予定である。
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