研究実績の概要 |
LPSO型Mg合金のミルフィーユ構造が示す卓越した材料・機械特性は,キンク構造と密接な関係があり,その理論的研究のひとつとして,回位と幾何学的適合条件(rank-1接続)の研究がある(Inamura, 2019)。また,適合条件が破れた場合(いわゆる不適合条件)とキンク変形についてもこれまで議論されており(e.g., Hasebe et al., 2014),不適合条件と回位の関係を明らかにすることは,重要な基礎研究といえる。不適合条件はいわゆる歪み空間における物理量であるが,本研究ではそれを双対な応力空間でも考察した(Yamasaki and Hasebe 2020)。このような動力学的な領域にまで視点を拡張した場合,LPSO 層におけるキンク構造の強度特性は,非平衡状態における系の安定性を反映すると考えられる。そこで,基礎方程式を可能な限り単純化し,その「構造」を解析することで,非平衡状態における系の安定性を解析した。 最初に歪み空間における不適合条件を考える。これは,変形理論における基本的物理量:歪み,転位および回位が,微分幾何学の基本量:計量,捩率および曲率にそれぞれ対応する空間である。この場合,不適合条件は歪み空間の計量と曲率を直に結びつける関係式に対応するので,それを微分形式の理論に基づき考察した。この式を物理量だけで書き換えると既存の不適合条件と一致する関係式が得られた。不適合度がゼロの場合,この条件は従来のSt.Venantの適合条件式に一致する。次に,歪み空間に双対な空間である応力空間において同様の問題を考察した。その結果,不適合条件が存在する場合(つまり回位場が存在する場合)の解析には,Airyの応力関数だけではなくそれを一般化した応力関数(三次元の場合に拡張し,かつ非対角成分も考慮に入れた応力関数)も必要になることがわかった。
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