研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
19H05136
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
増田 紘士 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20823701)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | セラミックス / 熱遮蔽コーティング / 結晶塑性 / キンク変形 / キンク強靭化 / 回転型キンク / 強弾性 / ミルフィーユ構造 |
研究実績の概要 |
航空機エンジン用のタービンブレードには,耐熱温度の向上のために,セラミックスをトップコートとする「熱遮蔽コーティング」が用いられる。しかし,セラミックス材料は脆く,これをバードストライク等の異物衝突 (FOD: foreign objective damage) から如何に守るかがエンジンシステム全体の信頼性に直結する問題となっている。そこで本研究は,熱遮蔽コーティングがFODを受けた際にしばしば観察される,セラミックス層の「キンク変形」に着目し,本現象を「衝撃エネルギーの吸収機構」として利用した「キンク強靭化」の概念を提案する。 2019年度は,8 wt%イットリア安定化ジルコニア (8YSZ) を対象に,コーティング中の「擬単結晶マイクロコラム構造」における単一コラムを模擬した「擬単結晶マイクロピラー」をイオンビーム微細加工法により作製し,ナノインデンターを用いた圧縮試験を行うことで,室温における8YSZコラムの単軸圧縮下での変形・破壊特性を調査した。本材料の圧縮特性は,明確な結晶方位依存性を示し,<001>c,<101>c,<111>c付近での単軸圧縮試験において,それぞれ特徴的な変形・破壊特性が観察された。 (1) <001>c方位:ナノ双晶ドメインのスイッチングに基づく強弾性変形に加えて,{101}c <101>cもしくは{111}c <101>cすべり (hard slip) を主すべり系とする塑性変形を生じた。 (2) <101>c方位:脆性的な擬へき開破壊を生じた。 (3) <111>c方位:{001}c <110>cすべり (soft slip) を主すべり系とする塑性変形を生じた。また,多重すべり変形による「回転型キンク」の形成が確認された。 以上の結果は,熱遮蔽コーティングのトップコートにおける結晶方位制御を指針化する上で有用な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の計画に含まれていた「セラミックスコーティングの力学特性評価」が,コーティング装置の不具合により実施できなかった。但し,計画を繰り上げて実施した「擬単結晶マイクロピラー圧縮試験」において,当初の計画以上の成果が得られている。また,コーティング装置の不具合も解消されたことから,2020年度において,計画の遅れは十分に回復できるものだと考えられる。以上を踏まえて,研究活動はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度においては,前年度に実施できなかった「セラミックスコーティングの力学特性評価」を重点的に実施する。特に,(1) セラミックスコーティングにおける結晶方位制御法を確立するとともに,(2) FODを模擬した衝突試験によるエネルギー吸収特性評価,電子顕微鏡分析を組み合わせることで,「キンク強靭化」を最大化するコーティング方位の特定を目指す。
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