航空機エンジン用のタービンブレードには,耐熱温度の向上のために,セラミックスをトップコートとする「熱遮蔽コーティング」が用いられる。しかし,セラミックス材料は脆く,これをバードストライク等の異物衝突 (FOD: foreign objective damage) から如何に守るかがエンジンシステム全体の信頼性に直結する問題となっている。そこで本研究は,熱遮蔽コーティングがFODを受けた際にしばしば観察される,セラミックス層の「キンク変形」に着目し,本現象を「衝撃エネルギーの吸収機構」として利用した「キンク強靭化」の概念を提案した。 具体的には,8 wt%イットリア安定化ジルコニア (8YSZ) を対象に,コーティング中の「擬単結晶マイクロコラム構造」における単一コラムを模擬した「擬単結晶マイクロピラー」をイオンビーム微細加工法により作製し,ナノインデンターを用いた圧縮試験を行うことで,室温における8YSZコラムの単軸圧縮下での変形・破壊特性を調査した。本材料の圧縮特性は,明確な結晶方位依存性を示し,<001>c,<101>c,<111>c付近での単軸圧縮試験において,それぞれ特徴的な変形・破壊特性が観察された。 (1) <001>c方位:ナノ双晶ドメインのスイッチングに基づく強弾性変形に加えて,{101}c <101>cもしくは{111}c <101>cすべり (hard slip) を主すべり系とする塑性変形を生じた。 (2) <101>c方位:脆性的な擬へき開破壊を生じた。 (3) <111>c方位:{001}c <110>cすべり (soft slip) を主すべり系とする塑性変形を生じた。また,多重すべり変形による「回転型キンク」の形成が確認された。 以上の結果は,熱遮蔽コーティングのトップコートにおける結晶方位制御を指針化する上で有用な知見である。
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