研究領域 | 量子クラスターで読み解く物質の階層構造 |
研究課題/領域番号 |
19H05141
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石川 貴嗣 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (40400220)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | メソン・バリオン相互作用 / カイラル対 |
研究実績の概要 |
核子共鳴N*(1535)S11は核子Nのカイラルパートナーの候補とされるが、その構造についてはよくわかっていない。N*(1535) はηメソンとNに崩壊しやすいため、N*(1535)の性質を明らかにするには低エネルギーηN散乱の情報が欠かせない。本研究では、ηと中性子 (n) の散乱の寄与を露わに含む最適な運動学で、重陽子 (d) 標的でのηメソン光生成反応の微分断面積を測定し、ηn 散乱の散乱長すなわちηN散乱の散乱長を精密に決定する。これにより自由空間でのN*(1535)の構造、カイラル凝縮に伴う質量増加なのか、ηとNのハドロンクラスターの分子状態なのか、の解明を目指す。
東北大学電子光理学研究センター ELPH の光子ビームラインで 電磁カロリメータ FOREST と前方スペクトロメータ BLC を使って、陽子 (p)を0°で検出した 940 MeV 程度の光子ビームでのγd→ηpn反応に対するηn不変質量に対する微分断面積の測定を行う。実験遂行により統計量を増やすとともに、データ解析を継続的に行った。水素標的におけるγp→ηpあるいはγp→π0p反応のイベントを使って、BLC スペクトロメータの運動量の較正を行った。また重水素標的データでのプリリミナリーなηn不変質量分布を得た。これらの結果については 3rd Jagiellonian Symposium on Fundamental and Applied Subatomic Physics の招待講演で報告した。 その他にも中性メソンと核子の間の相互作用として、低エネルギーωp散乱パラメータ (散乱長と有効距離) を決定し、学術論文にまとめあげた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ηN散乱の散乱長を精密に決定するため、陽子pを0°で検出した 940 MeV 程度の光子ビームでのγd→ηpn反応に対するηn不変質量に対する微分断面積の測定を2019年度に約1ヶ月継続して行った。実験は2017年度の末から開始しているが、電気代高騰のため想定通りのビームタイムが実施できず、目標の 1/3 程度しかデータ収集できていない。これまでに取得したデータを解析し、各検出器のエネルギー較正、タイミング較正をほぼ終わらせた。また水素標的におけるγp→ηpあるいはγp→π0p反応のイベントを使って、BLC スペクトロメータの運動量の較正を行った。 940 MeV の光子ビームを光子標識化装置を使って選別し、 BLC で 0°に放出されたpの運動量と飛行時間を測定する。 FOREST で 2 つのガンマ線 (γ) を検出し、γγ不変質量でηメソンを同定する。ηn不変質量に対する微分断面積からηn散乱長を決定するが、ひとたびγd→ηpn反応が特定できれば、ηn不変質量は光子ビームとpの運動量から高分解能で決定できる。こうしてプリリミナリーなηn不変質量分布を得た。これらのプリリミナリーな結果については 3rd Jagiellonian Symposium on Fundamental and Applied Subatomic Physics の招待講演で報告した。 さらに同じデータを解析することでγp→ωp反応の閾値近傍での全断面積を導出し、低エネルギーωp散乱パラメータ (散乱長と有効距離) を決定し、これを学術論文にまとめあげた (Physical Review C Rapid Communication, in press)。
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今後の研究の推進方策 |
ηN散乱の散乱長を精密に決定するため、陽子pを0°で検出した 940 MeV 程度の光子ビームでのγd→ηpn反応に対するηn不変質量に対する微分断面積の測定を行う。2020 年度には、実験遂行によりさらに統計量を増やすとともに、データ解析を継続的に行う。取得したデータについては速やかに、検出器ごとの基本的な較正を行い、システム全体の健全性、時期によってデータの質が変わらないか、を確認する。さらに BLC スペクトロメータの運動量較正を精密化し、FOREST の中性メソンに対するアクセプタンス、BLC の立体角や荷電粒子の検出効率が想定通りか、各種反応の断面積が既存データと矛盾がないか、を細かいところまで確認する。 十分な統計量を今年度中には達成できないかも知れないが、これまでに取得した目標の 1/3 程度のデータでさえ莫大な統計量である。このデータを利用して何らかの投稿論文 (統計誤差が大きい状態でのηn散乱長決定の報告あるいはその他の反応過程に関する報告) を完成させる。
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