本研究では、自然現象における階層構造、特に量子的離散性やクラスター化が関わる例として、液晶の線状トポロジカル欠陥に注目した。これは超流動ヘリウムなど量子流体で見られる量子渦糸と一定の類似性があるうえ、液晶乱流では高密度の線欠陥が密集したクラスターが形成されて、マクロスケールで種々の非平衡普遍法則が観測されるなど、マクロ非平衡現象におけるクラスター化と階層構造を調査するうえで大変興味深い現象である。本研究では、液晶欠陥ダイナミクスの3次元計測に挑戦し、その動力学を定量的に解析することで、量子流体系との共通点・相違点を明らかにし、乱流状態における階層構造の理解に資することを目標とした。 本研究ではまず、高倍率・高NAの対物レンズに適合した、カバーガラス型の電気対流セルを製作し、そこに色素等をドープした液晶試料を封入した。本セルで高密度欠陥からなる乱流状態を生成し、乱流からの緩和過程を計測したところ、欠陥の3次元構造とその時間発展の計測、特に欠陥どうしの再結合過程の計測に成功した。我々は、再結合の前後における欠陥対の運動を解析し、量子流体における量子渦糸の再結合と類似の時間発展則に従うことが確認された。その一方で、2本の欠陥の運動に非対称性があることも発見し、量子流体にはない特徴として解析を進めている。我々はまた、定常状態の欠陥乱流計測も行い、欠陥再結合がその1つの素過程であることを見出した。 非平衡現象において、ミクロとマクロの階層間の関係を理解することは1つの重要課題となっている。本研究の実施により、液晶欠陥ダイナミクスについて、個と集団の2階層を結ぶ素過程の1つを抽出し、特徴づけたことで、非平衡の階層構造の理解に向けた1つの実験的指針を提示し、端緒を開くことができたと考えている。
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