研究領域 | 量子クラスターで読み解く物質の階層構造 |
研究課題/領域番号 |
19H05147
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
仲澤 和馬 岐阜大学, 教育学部, 教授 (60198059)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダブルハイパー核 / 原子核乾板(エマルション) / 全面探査 / 3次元飛跡自動追跡 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
2018度から開始したグザイ粒子候補飛跡の全自動追跡を終了できた。その結果、ダブルラムダ核およびグザイハイパー核を、先の実験の約4倍に匹敵する34例検出することに成功した。特にグザイハイパー核は、過去2例に加えて6例のグザイが窒素に吸収されたと同定でき、1例は基底状態(1s)と考えられる明確に深い軌道(約6MeV)、2例は基底状態から一つ上の励起状態(2p:1~2MeV)である。その他3例は崩壊モードに2通りの可能性があるが、どちらかの可能性が1sまたは2pと矛盾しない。 高速化については、高画素・広視野でかつ高速撮像が可能なカメラを本科研費で購入でき、これまでのグザイ粒子飛跡の追跡へに適用したところ10倍速を達成できることが分かった。新たな経費で顕微鏡本体のピエゾを用いた高速駆動の機構の導入により、さらに10倍速化の可能性が開けた。これによりE07実験(J-PARC)で照射した約1000枚のエマルションの全面探査を数年で完遂できるものと期待できる。 エマルション中の3次元飛跡自動追跡およびハイパー核探査に供する、機械学習を開始した。まずGeant4で、エネルギー較正に用いるアルファ崩壊やビーム反応などを発生させ、荷電粒子の3次元情報を得る。これをもとにpix2pixという画像変換ツールを用いて、エマルション中で観察される飛跡の模擬画像を作成している。大量に生成する模擬画像の特徴を精査し、まずエマルション中のアルファ崩壊の効率的検出を目指すところまできた。 新たに新聞2紙(朝日、読売)で紹介されるとともに、物理学会の企画講演(1件)、査読付きconference paper8編(外国人5名、日本人3名)、国内学術誌1編が掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速化については、高画素・広視野でかつ高速撮像が可能なカメラの導入で、さらなる最適化は可能であるが、予定通りのこれまでのグザイ粒子飛跡の追跡のシステムの10倍速を達成できることが分かり、新たな経費で顕微鏡本体の高速駆動の機構を追加導入することにより実験解析のさらに10倍速化が見え、数年で解析できる可能性が開けた。 当初計画に先んじて、Geant4でビーム反応、アルファ崩壊やハイパー核事象を発生させ、エマルション中の顕微鏡画像に似せたシミュレーション画像の大量発生を開始した。これを用いて3次元飛跡の自動追跡のパラメータの最適化に取り組むことが可能となった。 また海外協力も進めた結果、これらの成果をもたらした博士課程学生5名(海外3名、日本2名)、および修士課程学生7名(海外5名、日本2名[1名は留学生])が、学位取得を果たしたことも、本研究の順調な進捗状況を示しているものである。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において顕微鏡画像の高速撮像については、従来の約10倍の高速化が達成されたシステムの最適化を目指す。 ハイパー核の生成・崩壊を全自動で高効率に認識する手法を開発する。そのために、シミュレーションでハイパー核を発生させ、生成・崩壊の分岐点からの飛跡の飛程・角度の組を用いて、すでに模擬画像の製作を開始した通常のビームの反応や自然放射同位元素の崩壊を起源とするα粒子飛跡と分離できるようなパラメータを機械学習で得る。その後、シミュレーションで発生させた飛跡を顕微鏡下で観察可能な精度の画像に変換し、後述の3次元飛跡追跡法を適用して得られる飛跡情報を用いて、実画像と同等の精度で識別できるかどうかを検証するとともに、ハイパー核認識の効率を高める。 エマルション中に3次元的に様々な角度で記録されている飛跡は、同一エネルギーの同一粒子でも乾板に垂直な飛跡の方が水平な飛跡よりも、濃くかつ太く見える。この違いを相殺するために、乾板に水平な飛跡については、3次元飛跡追跡のパラメータ(飛跡探索を行う単位長さと、飛跡と見なすパルスハイト閾値)を最適化する。一方垂直な飛跡に対しては、やはり垂直に記録されているビーム飛跡(MIP)の検出効率を評価する手法を確立し、90%以上の発見効率でビームを検出できるよう水平の場合と同様のパラメータを調整する。この開発により、これまで見つかったシングルハイパー核のみならずダブルハイパー核・ツインハイパー核事象の実画像を用いて、事象に関係する低エネルギー荷電粒子(比較的濃い飛跡)を90%以上の確率で得られるようにする。
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