研究領域 | 量子クラスターで読み解く物質の階層構造 |
研究課題/領域番号 |
19H05151
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70250412)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ハドロン間相互作用 / 2粒子運動量相関 / 格子QCD / カイラル動力学 / 高エネルギー重イオン衝突 |
研究実績の概要 |
ハドロン間相互作用は原子核などのハドロン多体系研究の基盤である。ところが核子を除くハドロンは全て不安定であり、散乱実験の標的にできない。我々は高エネルギー核反応からの様々なハドロン対(ΛΛ、pΩ-、pK-、pΞ-)の運動量相関を用いて相互作用を議論してきた。運動量相関は相対波動関数の2乗と粒子源関数の積分で与えられるため、後者が既知ならば前者から相互作用の情報が得られるのである。 また近年の研究の進展により、強い相互作用の第一原理計算である格子QCDによる様々なハドロン間相互作用が求められている。これらの中にはNΩ相互作用など従来の実験で調べることが困難な相互作用もあり、その検証が待たれている。カイラル動力学によるK^{bar}N(反K中間子-核子)相互作用も反K中間子原子データにより強く制限されているが、その予言を別の観測量で確かめることが求められる。相関関数はこうした相互作用の検証に用いることが可能であろう。実際、陽子・陽子(pp)、陽子・原子核(pA)、原子核・原子核(AA)衝突からのpΩ-、pK-の相関関数が最近測定されており、これらの実験データも理論的な分析を待っている。 さらに束縛状態が存在するときには相関関数に特徴的な源サイズ依存性が現れるため、これを利用したハドロン分子状態(束縛状態、または共鳴状態)の研究も興味深い。 本研究では格子QCDやカイラル動力学から得られる最新のハドロン間相互作用を用い、現実的な相関関数評価で必要となる結合チャネル・クーロンポテンシャル・しきい値のずれの効果を全て取り入れて運動量相関を求め、最近次々に報告されている実験データと比較してハドロン間相互作用の制限を進める。またこうした相互作用の性質からしきい値付近での散乱振幅とハドロン分子の性質を議論する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度に予定していたpΩ相関関数の研究は完成し、Phys. Rev. C誌のEditors' Suggestionに選ばれている。さらに2年間で完成予定であった「結合チャネル・クーロンポテンシャル・しきい値のズレ」の効果を全て取り入れた相関関数計算プログラムが、研究協力者の神谷有輝氏(ITP、CAS)を中心として開発が行われ、完成した。このプログラムを利用した結果を議論した論文は2020年4月にPhys. Rev. Lett.誌に掲載された。これらの成果は高く評価されており、また計画が前倒しで進んでいることから、当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度前半には、まず現実的なクォーク質量における格子QCDによるS=ー2バリオン間相互作用を用いて陽子・陽子(pp)衝突、陽子・原子核(pA)衝突からのpΞ-、ΛΛ相関関数を求め、最近報告されたデータと比較するとともに、pp(pA)衝突からのpΞ-(ΛΛ)相関関数の予言を行う。以前の我々の研究で原子核・原子核衝突(AA衝突)に絞ってpΞ-、ΛΛ相関の計算・予言が行われている。これ以降に格子QCDバリオンポテンシャルの更新、pp・pA衝突からの相関データ観測が行われており、計算結果の更新が求められている。昨年度の研究の進展により、それぞれのチャネルでの強い相互作用ポテンシャルに加えて、クーロンポテンシャル・結合チャネル・しきい値のズレの効果を全て取り入れた枠組みでの計算が可能となっており、第一原理計算から得られるポテンシャルと現実的な反応計算の組み合わせにより、実験データが説明可能かを検証する。 2020年度後半には当初の予定にはなかった重陽子(d)とストレンジネスハドロンの相関に着手する。重陽子は陽子(p)と中性子(n)がゆるく束縛した系であり、束縛状態と連続状態(分解状態)の結合を非摂動論的に取り入れることが重要となる。複合粒子とハドロンの相関関数については過去にほとんど計算例がない新たなチャレンジとなるが、複合粒子の生成機構とともに3体力や2体相関で見られないポテンシャルの効果を 調べられる可能性があり、また生成量からみれば実験的に十分測定可能であるため、この段階で予言を与えることに大きな価値がある。重陽子の分解効果(breakup effects)を取り入れる有効な手法として離散化チャネル結合法(CDCC)が知られているため、CDCC計算の経験をもつ研究者と新たに共同研究を行い、研究を進める予定である。
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