研究実績の概要 |
試作した試料のうち、CoCrFeNiMnx (x=0.7, 1, 1.3) とMn濃度を変えた合金系について、詳細に報告する。CoCrFeNiMn0.7, CoCrFeNiMn, CoCrFeNiMn1.3におけるXRD結果から、いずれの試料もFCCのピークのみが見られ、目的のFCC単相が作製できたと言える。ピーク位置から求めたCoCrFeNiMn0.7, CoCrFeNiMn, CoCrFeNiMn1.3の格子定数はそれぞれ3.61A、3.61A;、3.62Aであった。5%引張変形を施した各試料について電子顕微鏡(TEM)を用いて微細組織を詳細に観察した。TEM観察条件は、B = [111], g = 220, (g/5g)とした。弱ビーム暗視野(WBDF)像から、完全転位のバーガースベクトルの向きと転位線の向きを精査し、各試料の積層欠陥エネルギーを算出したところ、CoCrFeNiMn0.7、CoCrFeNiMn、CoCrFeNiMn1.3それぞれ19±1.2、30±2.6、34±3 mJ/m2となった。これにより、CoCrFeNiMnx 系ハイエントロピー合金においてMn濃度の増加に伴い積層欠陥エネルギーが増加することを実験的に示した。これらの試料における照射損傷挙動を把握するため、Kr+イオン照射その場観察実験を行った。観察条件は、B = [110], g = 200であり、(111)面上に形成する積層欠陥型不動転位(フランクループ)が線状に観察された。各試料に形成したフランクループのサイズ分布は-Mn0.7,-Mn,-Mn1.3の順にループサイズの減少、数密度の増加が観られ、上述した積層欠陥エネルギーのMn濃度依存性を支持するものであり、言い換えれば、フランクループ分布から積層欠陥エネルギーを見積れる可能性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
理想的な合金デザインは低放射化元素を含むFCC単相合金であり、基本元素:Fe,Crとオーステナイト化元素:Ni,Mn,Cuを調合して単相CSAを作製し、続いて低放射化元素:V,Ta,Wを適量含有させた単相RA―CSAを作製したい。この単相低放射化-CSA作製段階で、化学状態および電子状態を確認する。 耐照射性の調査としては、マルチビーム超高圧電子顕微鏡を用いて、点欠陥および二次欠陥の移動度を実験的に見積もり、第一原理計算による点欠陥挙動解析と合わせ、耐照射性向上と放射化に有効なRA―CSA材料デザインを提案する。 また、照射損傷のみならず、高温水腐食特性なども精査し、エネルギー炉用構造材料として適材適所の材料創製を目指していく。
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