5元素以上を等モル比で合金化した単相固溶体状態の高エントロピー合金は、幾何学的に結晶構造を有するが化学的な原子配置は乱雑で大きな配置のエントロピーを有することが特徴である。これまでの合金には見られない高エントロピー合金の特徴として、高温まで優れた強度を保つことや原子拡散の抑制などが報告されており、ミクロレベルには何らかの局所構造が存在し、高温安定性などの特性に関与している可能性がある。そこで、代表的な高エントロピー合金として知られるCrMnFeCoNi合金に対して、局所構造のあぶり出しが可能なパルス通電実験からその局所構造について調査した。その結果、非晶質合金で観測されるような、パルス通電により結晶化する準安定局所構造は存在しないことが示された。一方、溶体化処理後の試料の熱処理では電気抵抗の増大が観測され、その試料へのパルス通電では電気抵抗の減少が見られた。他研究グループからは、通常の金属・合金の場合とは対照的に、冷間加工により高エントロピー合金の電気抵抗は減少することが報告されている。これらの結果は、非晶質合金とは異なりCrMnFeCoNi高エントロピー合金には熱処理で何らかの局所構造が形成されること、さらにはその局所構造はパルス通電や冷間加工のような非平衡状態にさらされると分解する可能性が示された。今後は、熱処理やパルス通電などによる電気抵抗変化と機械的特性及び組織観察の結果との関係を明らかにし、どのような局所構造が形成されているか、さらには物性との相関を追求していく予定である。
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