令和元年度に引き続きB2構造を有するXY型合金に着目し、XとしてTi、Zr、Hfの3種類、YとしてNi、Pd、Pt、Cu、Ag、Au の6種類の元素により構成される多主成分XY合金を対象とした。さらに、(TiZrHf)をベースとした不規則BCC構造を有する多主成分系合金も対象にした。合金インゴットをアーク溶解法で作製し、均質化処理および溶体化処理を施した。各試料の内部組織、相構成、結晶構造を調査した。マルテンサイト変態特性をDSCにより調べた。引張試験および一定応力下での熱サイクル試験により、機械的特性と形状記憶特性を調査した。多主成分合金におけるマルテンサイト変態温度の支配因子を調査した。Tiサイトを多主成分化およびNiサイトを多主成分化した合金はそれぞれB2-B19’変態、B2-B19変態を示し、いずれの場合も価電子濃度の低下に伴い変態温度が上昇することが分かった。TiサイトとNiサイトを同時に多主成分化した合金においても価電子濃度の低下に伴い変態温度が上昇する類似な傾向を示したが、同じ価電子濃度で比較すると変態温度が低いことが分かった。一定応力下での熱サイクル試験の結果、多主成分化は形状記憶特性の改善に有効であることが確認できた。また、ストイキオメトリーからのずれが多主成分合金の変態温度に及ぼす影響について調査した。TiNi二元合金の場合、Ti-rich(Ni-poor)の組成ではTi濃度の変化により変態温度は変化しないが、Niサイトを多主成分化した場合は、Ti-richの組成範囲においても変態温度が低下する傾向を示した。多主成分化することで、Ti-richサイドの固溶限が大きく拡張したと考えられる。多主成分化することで、析出強化が利用出来ることを示唆する結果である。多主成分化は、BCC構造を有する形状記憶合金の強度上昇にも有効であることが確認できた。
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