fcc単相のCantor alloy (CrMnFeCoNi合金)およびbcc単相のRefractory HEA (TiZrNbHfTa合金)に対して,最大で90%までの冷間圧延を行った.各圧下率の試料に対して,液体窒素温度および室温における電気抵抗率測定を行った.また,組織観察としてEBSD測定,X線回折測定,力学試験としてビッカース硬さ試験を行った.EBSD測定結果より,塑性加工の進展に伴って結晶粒微細化が起こっていることが判明した.X線回折結果より,圧下率を大細で90%まで増加させても,Cantor alloy とRefractory HEAはそれぞれ,fcc単相とbcc単相を維持していた.X線ラインブロードニング解析より,塑性加工の進展に伴って転位密度の増加が起こっていることを確認した.ビッカース硬さ試験結果より,圧下率の増加に伴ってビッカース硬さは増加し続けた.ビッカース硬さの増加は,組織変化,つまり,結晶粒微細化と転位密度の増加による,結晶粒微細化強化と加工硬化によって説明が可能である.それに対して,電気抵抗率は,従来の純金属や希薄合金で見られたように,塑性加工の進展に伴って増加しなかった.これは,ハイエントロピー合金が5種類以上の当モルの元素より構成されているため,短範囲秩序を持つことが原因だと考えられる. 短範囲秩序は,単結晶のX線回折によって得られる散漫散乱の解析や,透過型顕微鏡観察を用いて評価されることは知られている.一般的に,十分大きな単結晶の作製は困難なことが多く,透過型顕微鏡観察は局所情報となる.そのため,今回の電気抵抗率の変化が短範囲秩序によるものであると考えられるため,ハイエントロピー合金の短範囲秩序の評価のみならず,別の合金系でも短範囲秩序が見られる場合には,電気抵抗率測定が有効であることが判明した.ハイエントロピー合金の特異な力学特性や物性には短範囲秩序が影響しているという報告もあるため,今後は別種のハイエントロピー合金の電気特性の測定が期待される.
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