研究領域 | ハイエントロピー合金:元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理 |
研究課題/領域番号 |
19H05169
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
本郷 研太 北陸先端科学技術大学院大学, 情報社会基盤研究センター, 准教授 (60405040)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ハイエントロピー合金 / 第一原理熱力学アセスメント / マテリアルズ・インフォマティクス / 機械学習 / クラスタリング |
研究実績の概要 |
本研究は、ハイエントロピー合金系の特異な力学物性や化学的特性を理解するために、組成配分や偏析に伴う非均一性を考慮したミクロ組織解析を目的とする。解析手法として、「XRD分類による機械学習的構造推定法」と「第一原理熱力学アセスメント」を開発する。まず、大量の微視的構造モデルと呼応するXRDシミュレーションの構造・XRDパターンのデータを学習データとするクラスタリング識別モデルを構築する。この推定構造と実験を照合して得られた微視的原子配列構造を入力とする第一原理熱力学アセスメントを実施し、ランダム構造との比較から、微視的構造寄与を解明する。
今年度は、典型的な単相固溶体系ハイエントロピー合金AlxCoCrFeNi(0<x<2)を対象系として、提案手法の開発を行った。従前の「special quasirandom structures (SQS)法」は、完全にランダムな原子配置を再現する合金系構造生成法だが、本研究で対象とするAlxCoCrFeNi系の母物質であるCoCrFeNiでは、Crは反強磁性的短距離秩序を持つため、単純なSQS法の適用では、このような磁気秩序を再現する微視的構造モデリングが難しい。本研究では、CoCrFeNi合金系の可能な原子配置を網羅的に考慮して、当該系における磁気秩序による系の安定性を計算科学的に検証した。こうして得られた原子配置について第一原理フォノン計算を実施すれば、第一原理熱力学アセスメントに供する熱力学パラメータ推定、更には、当該熱力学パラメータを用いた計算熱力学を実施することで、当該系における計算相図を得ることができる。この第一原理的計算熱力学計算との比較のために、現在利用可能な実験データベースに基づく熱力学パラメータを用いた計算熱力学の予備的計算も行った。また、XRD分類器開発ではいくつかの典型的な合金系で予備的計算を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の研究基盤である「第一原理熱力学アセスメント」及び「XRD分類器」に関して、予備的研究を原著論文としてまとめた。前者は、Comput. Mater. Sci.誌にアクセプトされ、後者は、Adv. Theory Sim.誌で現在、マイナーリビジョンの状態となっている。これらの研究基盤に加えて、本研究課題の要となる要素技術である微視的原子配置構造モデルの生成プログラムを開発し、その実装を行った。得られた各種構造モデルに対して、第一原理電子状態計算を実施し、それらの短距離磁気秩序を検証した結果、新たな磁気秩序を見出すことができた。得られた結果については、現在、原著論文にまとめている。また、現在利用可能な実験データベースに基づく熱力学パラメータを用いた計算熱力学の予備的計算も完了しており、本研究で得られた第一原理熱力学アセスメントの結果を利用した計算熱力学の研究展開が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、単相固溶体系で「XRD分類器による微視的構造を入力とする第一原理熱力学アセスメント」を実施する。令和元年度は、ハイエントロピー合金系の微視的構造モデルを高速大量生成するPythonパッケージを開発した。当該プログラムで生成した構造に対するXRDシミュレーションを実施し、XRD分類器を構築する(当該機械学習モデルについては、令和元年度に準備研究を実施済み)。この分類器の予見する微視的原子構造配列と「special quasirandom structures (SQS)法」との相関性を検証し、両者の違いを定量的に評価するとともに、それが第一原理算定熱物性量にどの程度影響を与えるかを解明する。次いで、本研究の最終目標である「多相ハイエントロピー合金系の第一原理熱力学アセスメント」に取り組む。XRD分類によって多相合金における組成配分や偏析に伴う非均一性を取り除いて主相組成のみならず占有サイトを同定し、得られた微視的構造を入力とする第一原理熱力学アセスメントを展開する。
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