研究領域 | ハイエントロピー合金:元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理 |
研究課題/領域番号 |
19H05171
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
中村 康一 京都先端科学大学, 工学部, 教授 (20314239)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ハイエントロピー合金 / カクテル効果 / 第一原理計算 / 電子物性 |
研究実績の概要 |
本年度は主に下記の1~3について実施した。 1. 【TiZrNbHfTa合金およびCrMnFeCoNi合金の局所構造モデルの導入と第一原理電子状態計算】典型的なハイエントロピー合金として、BCC構造ベースのTiZrNbHfTa合金を中心に、固溶体の局所構造として乱数により各原子の元素種をランダムに選んだ3×3×3の超格子構造54原子モデルを216個導入して、PAW基底を用いた精密な第一原理電子状態計算を行った。単位格子の格子定数および各原子の座標変位を構造最適化により計算し、平均二乗変位のほか、各原子の変位ベクトルも第1近接原子の組み合わせを引数とする構造指標として取り扱い、近接原子の組み合わせが原子変位に与える影響について解析した。FCC構造ベースのCrMnFeCoNi合金についても3×3×3の超格子構造108原子モデルを用いた同様の第一原理計算と変位ベクトルの解析を進行させている。 2. 【ポピュレーション解析と局所電子物性計算プログラムコードの開発】1.で計算した電子状態から得られたKohn-Sham軌道をもとに、TiZrNbHfTa合金モデル全体の比抵抗率やゼーベック係数等をこれまでに研究代表者が開発した手法に基づいて計算するとともに、慣習的なポピュレーション解析により各原子の電荷・スピンや結合次数を導出した。さらに、原子モデル単位格子の部分集合としての任意の領域に対応する局所電子物性計算アルゴリズムを開発し、各原子近傍領域の自由電子密度、スピン密度、比抵抗率、ゼーベック係数等の局所電子物性値を求めるプログラムコードの開発を行った。 3. 【AlCrFeMnNi合金冷間変形解析サポート】分子動力学シミュレーションの見地をもとに、東北大学・千葉晶彦教授のグループによるFCC構造ベースのAl5Cr12Fe35Mn28Ni20合金の冷間変形解析のサポートを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子状態計算やプログラムコードの開発は当初の予定通りに進行している。また、近接原子の組み合わせが原子変位に与える影響の解析については、TiZrNbHfTa合金においてユニークな知見が得られ、近接原子の組み合わせに対応する各種局所電子物性値のデータベース化は当初の予定よりも進んでいると思われる。 一方でCOVID-19の影響もあり、成果発表の観点では若干遅れているように見える。本年度におけるCOVID-19問題の回復状況にもよるが、とくに年度末に向けて論文や国際会議での成果発表を進めていく予定である、トータルとしておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は以下の3項目(A-2, B-2, C)について実施する。 A-2. 【局所構造モデルの第一原理電子状態計算の継続実行】CrMnFeCoNi合金およびTiZrNbHfTa合金の原子モデル基本格子についてできる限り多数の原子モデルについての情報を取得するため、2020年度の前半までこれらの3×3×3超格子構造モデルの第一原理電子状態計算を継続する。 B-2. 【局所電子物性計算の継続実行とデータベース化】A-2.で行う第一原理電子状態計算に対応して、前年度で開発した局所電子物性計算プログラムを実行し、構造指標との相関の解析とデータベース化を進めていく。各原子モデルから含まれる原子の個数分の原子近傍領域局所電子物性値が得られるが、多数のデータが集まったうえで本研究にて設定した変位ベクトルを表す構造指標と各局所電子物性値との相関を見極め、構造指標の再定義や最適化について検討する。また、新たにハイエントロピー合金の特長的電子物性が実験的に報告された場合は、関連する局所電子物性値が計算できるように局所電子物性計算プログラムコードの改良を行う。 C. 【カクテル効果メカニズムの解明と機械学習による組成・物性予測】ハイエントロピー合金についてターゲットとなる組成を設定し、原子モデルの統計的集合としての組成がターゲットにできるだけ近づくように構造指標と局所電子物性値をデータベースから読み出して、ターゲット組成におけるハイエントロピー合金の電子物性を表現する。ターゲット組成の変化に対して物性が非線形に振る舞う起源となる局所領域や局所構造を指摘特定して、その詳細なメカニズムを議論するほか、人工ニューラルネットワーク等の機械学習によるデータ科学的手法を用いて各電子物性について大きなカクテル効果が期待できるハイエントロピー合金の組成を予測する。
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