本年度は主に下記の1・2について実施した。 1. 【ハイエントロピー合金モデルの原子変位-局所電子物性相関解析】 BCC構造ベースのTiZrNbHfTa合金を中心に、固溶体の局所構造として乱数により各原子の元素種をランダムに選んだ超格子構造モデルを導入し、PAW基底を用いた精密な第一原理電子状態計算に基づいて原子変位と局所電子物性における相関を解析した。TiZrNbHfTa合金の54原子モデルでは、前年度より3倍の数となる計648個のモデルを用いて解析を進め、各モデルの電子状態密度をベースに熱電特性等の局所電子物性を計算し、局所状態密度や部分状態密度を扱うことによる細部の取り扱い法について考察した。第1近接原子の組み合わせに応じた各元素の平均変位ベクトルは、原子径や近接原子との結合次数にも関連してそれぞれ独特な挙動を示し、これらの原子変位が局所電子物性値にも多大な影響を及ぼすことが示された。 2. 【第一原理計算結果の機械学習によるTiZrNbHfTa合金熱電特性予測の試み】 648個のTiZrNbHfTa合金54原子モデルにおける第一原理計算に基づくゼーベック係数解析結果を用いて、平均原子変位等の変位情報を記述子として対応する原子モデルのゼーベック係数を人工ニューラルネットに学習させて、重みやバイアスの更新を行った。大規模な原子モデルにおける熱電特性は、原子モデルの組成比および54原子モデルの原子変位から確率論的・統計的に導入できる平均変位情報を記述子とした人工ニューラルネット出力情報により予測し、組成比変化に対する応答結果や記述子の評価、ニューロンの詳細について解析した。54原子モデルで示された価電子濃度に対する非線形性は予測結果に強く反映され、隠れ層ニューロンの出入力信号が第1近接原子の組み合わせにおける原子変位の特異性と対応する例も観察された。(1・2合わせて論文作成中)
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