研究実績の概要 |
ハイエントロピー合金は強度に優れた材料として期待を集めている。従来の合金では、多くの比率を占める溶媒元素と少量の溶質元素を区別して考える事で物質設計が進められてきたが、ハイエントロピー合金は多くの元素が等しい元素比で構成されているため、従来の考え方は通用しない難しさがある。最近の第一原理計算によって、元素の種類によって原子変位の大きさが異なっており、平均原子変位が大きいほど力学的強度が増す傾向にある事が示唆されている。しかし、これをサポートする実験が不足していた。そこで、代表的なミディアムエントロピー合金であるCrCoNiにおいて局所的に格子構造を明らかにするため、広域X線吸収微細構造(EXAFS)の測定を、高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設で行った。Cr,Co,Niの各元素の吸収端でX線の吸収率を測定する事で、各元素における局所構造の違いを調べた。なお、格子振動などの動的効果を除くために低温で測定を行った。得られたEXAFSスペクトルを解析した結果、Cr,Co,Niの各原子とその周囲にある最近接の原子との距離には、ほとんど差は見られなかった。しかし、デバイ・ワラ―因子を見積もると、Niの値は小さくCrでは大きい値となった。これは、Niが周囲の原子と調和しているホスト的元素であるのに対して、Crが格子構造の乱れを誘起するゲスト的な元素である事を示している。原子変位によって、その原子の周囲の格子構造の乱れが誘起されていると考えれば、本実験で得られた結果は第一原理計算の結果を裏付けるものである。
|