固体である水素吸蔵合金に水素が吸蔵され固体の水素化物が形成される場合、反応の標準エントロピー変化は一般に気体の失うエントロピーとほぼ同じになる。気体の平衡圧力と温度の逆数は 直線関係があり自在に平衡圧力と水素放出温度の関係を制御することができない。水素吸蔵合金のエントロピーをハイエントロピー合金を用いて制御することが可能であれば所望の温度における水素の平衡圧力をコントロールすることができる。しかしながら、ハイエントロピー合金を水素貯蔵に応用した例は極めて少なく、またハイエントロピー合金が水素を繰り返し吸蔵したとの報告も少ない。更に、ハイエントロピー合金の室温付近で水素吸蔵の例の報告は現時点では皆無であるため、水素吸蔵に伴うエントロピー変化を調べることは行われていない。本研究では三元素系ミディアムエントロピーT-V-X系BCC固溶体水素吸蔵合金、四元素系BCC固溶体単相合金の作成を行った経験を基にBCCおよびC14 Laves相Ti系多元素合金の探索と室温での水素吸蔵性を調べた。 第一遷移系列の元素を主成分とする等モルの四元素あるいは五元素からなるミディアムおよびハイエントロピー合金を作成し、ほとんどでBCC単相であることを明らかにした。その中から五元素BCC単相合金に室温で可逆的に水素化反応が進行するものを初めて見出した。この水素吸蔵ハイエントロピー合金を用いて複数の温度で水素平衡圧力を測定することで、水素化反応に伴う標準エンタルピーおよび標準エントロピー変化を求めることに成功した。従来から報告されている、気体の水素の持つ約130kJ/(mol K)よりも少ない標準エントロピー変化を観測した。また、室温での可逆的水素吸蔵性に優れたC14 Laves相合金を六元素等モルで作成することに成功した。
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