本研究では,合金構成元素の割合と強ひずみ加工のひとつである高圧ねじり(HPT)加工により結晶粒を微細化させたCoCrFeNiMnハイエントロピー合金(HEA)の耐食性を調査することで,HEAの耐食性に及ぼす合金構成元素や結晶粒径の影響を調査した。材料はCrの含有量を変化させた5種類のHEAをアーク溶解にて作製し、強ひずみ加工の一種であるHPT加工を施し結晶粒を微細化させた。粗粒材(CG材)の結晶粒径は約360ミクロンであり、結晶粒微細化させたHPT材の結晶粒径は約40ナノメートルであった。耐食性の評価には1M H2SO4溶液および3.5%NaCl溶液中での分極曲線測定を用いた。結果はCr含有量が多い試料ほど孔食電位が向上し、不動態保持電流が低下し、HEAの耐食性にCrが大きな影響を与えることがわかった。また、CG材とHPT材で耐食性に大きな差は見られなかった。さらに同一のCr含有量を有する二元Fe-Cr合金とHEAを比較するとFe-Cr合金に比べHEAは耐食性が良いことがわかり、安定した不動態皮膜を形成していると考えられる.この原因を探るためXPS分析により不動態皮膜の分析を行った.表面分析からHEAの不動態皮膜は最表面ではCrの濃度が高く,不動態皮膜内部ではNiが濃化した皮膜組成になっていることがわかり、不動態皮膜内部でのNi濃化と最表面でのCr濃化の効果が合わさりがHEAの安定した不動態皮膜が形成され耐食性が向上したと考えられる.さらにHPT材とCG材では不動態被膜中でのCrおよびNi濃度の差は見られなかった。
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