研究実績の概要 |
「荷電対称性」は強い相互作用がもつ基本的な対称性であり、陽子 (p) と中性子 (n) を入れ替えても核力や原子核の性質は基本的に変わらない、とされてきた。素過程で考えると荷電対称性は u クォークとd クォークの入れ替えに対する対称性であり、その破れの度合いは高々 u クォークとd クォークの質量差、電磁相互作用の効果の違い程度である。ところがいまΛバリオンを含む原子核の質量から、これらでは説明できない大きな荷電対称性の破れ、すなわちΛp 間とΛn間の相互作用の違い、が提唱されている。核子どうしの散乱の場合でも、アイソスピン 1 が保証される pp 散乱と nn 散乱の散乱長は電磁相互作用の効果を補正すると -17.3±0.4 fm、-18.9± 0.4 fm であり、これらの差はクォークの質量差で説明がつく 0.3 fm よりずっと大きくなっているように見える。これまでの nn 散乱長の決定方法には問題があり、本当に pp と nn で散乱長が異なっているのか定かではない。そこで本研究では、nn 散乱の散乱長を精密に決定し、電磁相互作用の効果を補正したppの散乱長と比較する。これにより荷電対称性の破れを定量的に議論し、破れの起源を解明することを目指す。直接nn散乱実験を行うことがほぼ不可能であるためnnの散乱長の決定は間接的なものにならざるを得ない。そこで電子非弾性散乱(e,e')の仮想光子γ*を用いたγ*d→π+nn反応のnn不変質量に対する微分断面積からnn散乱長を精密に決定する。この手法が可能であることを理論的な考察で示し、まとめた学術論文を Physical Review C 誌に投稿した (arXiv:2003.0249)。また Mainz MAMI 施設での電子散乱実験での最適な運動学を評価し、国際セミナー「Joint THEIA-STRONG2020 and JAEA/Mainz REIMEI Web-Seminar」で紹介した。
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