公募研究
我々はJ-PARC高運動量ビームラインにおいて高統計のΛp散乱実験を行い、二体のΛN相互作用を精密に調べることを目標としている。その結果元に、新学術領域「量子ビーム応用」A02班と連携して、中性子星内部の姿を明らかにする。19年度はJ-PARCにおけるΛp散乱実験のためのシンチレーションファイバー検出器をデータストリーミング化するための要素技術の開発を行った。本実験ではシンチレーションファイバー検出器はファイバー辺り1MHzという高強度ビームにさらされるため、アナログ波形を増幅するための回路にも高レート耐性が要求される。また、本回路は最大1T程度の磁場中にインストールされるため、回路上の素子、とりわけスイッチング電源の選定には気を付けなければならない。そこで、まず複数の電源ICを取り寄せ、実際に磁場中での性能試験を行った。その結果、LT8612をシールド付きのインダクタで利用した場合が最も優秀な結果を示す事が分かった。一方、アナログ信号増幅用にPETIROC2AというASICの評価を行った。本ASICは元来TOF-PET用に開発されたASICであり、良い時間分解能を得るために高速なアンプが内蔵されている。そのため、鋭い波形が得られることが期待され、パイルアップによる信号ロスを抑えることが出来る。19年度にはPETIROC2A用の試験基板を開発して、実際に検出器に接続し信号幅の評価を行った。β線源をシンチレーションファイバー検出器に照射した際には、目標値である30 nsよりも短い信号幅の波形を得ることができた。これにより、本研究でPETIROC2Aを用いる有用性を示すことが出来た。
2: おおむね順調に進展している
この研究で開発する電子回路は、最大1T程度の磁場中で動作しなければならない。そこで最も問題となる部分が、入力の40Vを5Vへ変換するスイッチング電源である。電源の制御にコイルを使う事から磁場中では極端に変換効率を悪化させる場合があるためである。そこで、複数の電源ICに対して耐磁場試験を行った。1Tの静磁場中で変換効率を測定したところ、シールド付きのインダクタを外部に実装した場合のLT8612が最も優秀な結果を収めた。この結果から本番用の回路にも同ICを用いることを決定した。一方19年度にはPETIROC2Aチップがシンチレーションファイバー検出器の読み出しに本当に適しているかどうかの試験を行った。上半期には開発元であるOmega/Weerocを訪れ、本ASICの利用方法と今後の部品調達について開発者らと協議を行った。得た知識をもとに本ASIC用の試験基板を設計および開発した。19年度では開発した試験基板を用いて実際にシンチレーションファイバー検出器の信号を読み出す試験を行った。PETIROC2Aは本来TOF-PET用に開発されたASICであるため、発光量の多いシンチレータを光検出器に接続して使用することが想定されている。そのため、シンチレーションファイバー検出器のように、技かな光(小さな信号)を検出できるかどうかは未知であった。シンチレーションファイバー検出器にベータ線を照射して、その信号を読み出したところ要求する性能を満たすことが出来ることが分かった。以上の事から19年度では特にトラブルもなくほぼ予定通り計画が進んだと言える。
20年度ではPETIROC2Aのビーム試験と、Λp散乱実験で実際に用いる読み出し回路の開発が主な目標となる。19年度ではPETIROC2A回路をシンチレーションファイバー検出器に接続してベータ線で評価を行った。ところが、手持ちのベータ線源では実験で想定されている信号強度に達しない。アナログ信号処理では、低強度では正しく動作していても高レートでは問題が現れるという事がある。そのため、19年度に開発した試験回路のビーム試験を行う。試験は東北大電子光理学センターにおいて電子ビームを用いて行う。シンチレーションファイバー検出器に同施設においてビーム照射し、その信号を試作PETIROC2A回路で読み出す。本試験では実際のΛp散乱実験と同様のビーム強度で試験を行う事で、PETIROC2A回路が本当に高強度ビーム下で利用可能か試験する。なお、データストリーミングを行うFPGAファームウェアやソフトウェアについてはこれまでの研究で開発済みである。その後、試験結果をもとにして実際の実験で用いる本番用の読み出し回路を開発する。試験回路では1基板につき1つのPETIROC2Aを実装したが、本番回路では4つのASICを1つの基板に実装しなければならない。同時に出力されるデータ量も増えるため、データリンクを1Gbpsのネットワークから10Gbpsのネットワークインターフェースへと変更する。このような回路基板を20年度中に設計、および開発する。
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