本研究は、太陽系において氷天体の内部の水の海「内部海」がいつできたか?という学術的な問いに答える事を目的とする。内部海の発生年代を紐解く上で、内部海内部の物質が噴出して表層に堆積した時期「表出年代」は重要課題であるが、表層物質の直接分析が不可能なため未解決だった。本研究は、惑星のプラズマの照射がもたらす、表層物質の変性「宇宙風化」に注目し解決を試みる。最高10億年に渡る、天体進化の時間スケールで進行する宇宙風化を、表層物質の模擬試料へのプラズマ照射実験で再現する。照射で合成された化合物を非破壊で定量化することは難しかったが、ミュオンビームという新しい手法により定量化する。化合物の量を風化の進行度合いと見なし、プラズマの照射総量と対応づける。この対応と表層の遠隔観測から、風化の継続時間を導出する。表層における、風化継続時間の空間分布に基づき、内部物質が表出して風化を開始した年代を定量化する。
20年度は、19年度に引き続き、長期宇宙プラズマ風化を再現できる、専有可能な独自の大強度照射装置の開発を継続した。装置のサブシステムの中で、最もエフォートとリソースが必要なイオン照射部の開発の技術的目処がたったため、同システムの開発を行い、ほぼ完成させることができた。現在は、19年度までに開発してきた、低温チャンバ、電子銃とともに、組み上げを行っている最中である。
当該新学術領域B01班のメンバー等と共に、J-PARCにおいてミュオンビームを用いて試料を分析する予定であったが、コロナ禍においてビームタイム申請の競争率が上がってしまい、研究期間内にビームタイムの取得ができず、ミュオン分析は実施することができなかった。今年度は、次回以降のミュオン分析の機会に向けて、過去の類似したプラズマ照射実験を調査し、本研究の試料の中に新たに合成された物質の候補を洗い出し、測定すべきミュオン励起X線の波長帯を選定した。
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