天文学における未開拓の電磁波帯域である中間エネルギーガンマ線、すなわち0.1-10 メガ電子ボルト (MeV) の帯域には、原子核が放出するラインガンマ線が存在し、超新星爆発や連星中性子星の合体、ブラックホールなどの高エネルギー天体における核反応の唯一の直接的プローブを提供する。本研究者らは、MeVガンマ線天文学を開拓するため、大有効面積を実現できる液体アルゴンTime Projection Chamber (LArTPC) を気球搭載し、同一検出器で反重陽子検出によるダークマター間接探索とコンプトンカメラによるMeVガンマ線観測を同時に行なうGRAMS実験を推進している。 2020年度はGRAMS計画を本格的に始動させるための基礎的な研究を進めた。第2、3回目のコラボレーション会議をオンラインで実施し、日米双方の研究の進捗やゴールの設定を確認した。 GRAMSのLArTPCを用いたコンプトンカメラは、大容量の散乱体のみで構成されるという新しい概念を採用している。そこで主要なイベントとなる多重コンプトン散乱の正確な解析が不可欠であり、今年度は再構成アルゴリズムの開発を行った。独立な2つのモデルを考案した。ひとつは物理モデルに基づく最尤推定法であり、もう1つはモンテカルロシミュレーションで生成したデータを利用した深層学習による方法である。どちらも高い再構成効率を達成することができ、現在、論文を準備中である。また、気液二相型アルゴンTPC「ANKOK5」の実機データを用いて、GRAMSのプロトタイプ機を設計するための基礎評価を行った。さらに、MeVガンマ線の観測戦略立案のため、硬X線・GeVガンマ線カタログのマッチングによるMeVガンマ線天体リストの作成も行った (論文投稿済)。以上の成果により、日本におけるGRAMSプロトタイプ機の開発準備を整えることができた。
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