研究領域 | 宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。 |
研究課題/領域番号 |
19H05188
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小林 義男 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30221245)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フッ化物イオン電池 / フッ化カルシウム / インビーム・メスバウアー分光 / 57Mn / イオン注入 / イオン拡散 |
研究実績の概要 |
フッ化物イオン電池(FIB)は、フッ化物イオンを電荷移動体として用いおり、重量電気容量・体積エネルギー密度ともにリチウムイオン電池をしのぐと期待されている。本研究では、FIBの母材料となるホタル石構造のフッ化カルシウム(CaF2)中のフッ化物イオンの動的挙動をみるために、時間微分型摂動角分布法(TDPAD)や負ミュオンスピン緩和法(μSR)、インビーム・メスバウアー分光法(IBMS)を行なう。 57Mnイオンを注入するインビーム・メスバウアー分光実験を放医研重イオン加速器HIMACで行なった。CaF2単結晶を295Kと310Kに保持して57Fe/57Mnインビーム・メスバウアースペクトルを測定した。スペクトルは、2つのローレンツ型ダブレット(D1、D2)と1つのシングレット(S1)の重ね合わせとして解析した。得られた異性体シフトや四極子分裂などのメスバウアーパラメータをDFT計算結果と照らし合わせ、57Feの酸化状態とその周囲の配位環境を考察した。D1、D2ともに、ほぼ同じ異性体シフトの値を示したことから、8個のフッ化物イオンで囲まれたCaサイトを置換した高スピン状態Fe(II)と考えられる。D2の四極子分裂の値が大きいことは、格子欠陥の数またはフッ化物イオンが作る格子の歪みが大きい環境にFeイオンが捕捉されていると解釈した。S1は、295Kよりも310Kでその面積強度が明らかに増加し、スペクトル全体の形がS1に収束し始めた。このことは、室温近傍でプローブ核57Fe周囲の原子配置の変化、おそらくフッ化物イオンの移動の結果であると示唆された。S1、S2成分の面積強度の減少にともないS1成分の強度が増加して、かつS1の線幅のブロードニングが見られたことから、Fe核の近傍で促進されたフッ化物イオンの動的挙動の結果と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高温でのフッ化物イオンの移動によるイオン導電性については、長い研究の歴史がある。ホタル石構造CaF2 については、バルクにおけるフッ化物イオンの移動度が測定されているが、本研究で目指すフッ化物イオン電池としての物質設計の指針とするためには、結晶中でのミクロな移動のメカニズムを解明する必要がある。19Fの核磁気共鳴(NMR)による研究も行われているが、実際の動作環境に近い高温領域では、スピン緩和が速すぎて測定が困難である。高温でかつミクロスコピックなフッ化物イオンの動的挙動を測定する手法が必要とされる。 インビーム・メスバウアー分光を応用した今回の結果は、室温近傍でフッ化物イオンが拡散する前駆現象(例えば、local motionなど)が起こっていることを強く示唆している。イオンの動的振る舞いを観察する上で、インビーム・メスバウアー分光法が、有用な測定手段であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、アルカリハライドやフッ化物におけるフッ化物イオンの拡散挙動は、500℃以上の高温領域におけるマクロスコピックな実験データをもとに考察されてきた。本研究で得られた原子スケールでの挙動についての研究結果は例が少ない。今回の研究結果は、室温近傍でフッ化物イオンが拡散する前駆現象(例えば、local motionなど)が起こっていることを強く示唆している。このことを確認すべく、時間分割データの解析や時間微分型摂動角分布法(TDPAD)や負ミュオンスピン緩和法(μSR)の準備を進める。
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