研究領域 | 宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。 |
研究課題/領域番号 |
19H05189
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
藤本 龍一 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (20280555)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超伝導遷移端マイクロカロリメータ / TES / 電磁界シミュレーション / 磁気シールド / 熱シミュレーション |
研究実績の概要 |
3次元電磁場シミュレーションにより,任意の磁気シールド形状において静磁場に対する遮蔽効果を計算できるようになり,シールドの形状,入射窓の径やシールドに対するセンサ位置によって遮蔽効果がどのように変わるか評価を行なった.定性的には穴の大きさと同程度までは磁場が入り込むことで理解できるが,3次元的に定量的に評価できるようになったことは今後に向けて大きな進展である.磁気シールドを強磁性体と超伝導体の2層にした場合の計算も行ない,超伝導体を外にした方が遮蔽効果がよいという結果を得た.強磁性体については磁場に対する透磁率の値を与えることでその特性を正確に取り込むことができるようになったが,超伝導体については現時点では完全導体として扱っており,それが結果にどのように影響しているかは引き続き検討が必要である.中性分子計測実験に向けた相談を実施し,新たに高周波(MHz-GHz)帯域の電磁場の影響の評価も開始した. 熱解析シミュレーションにより,センサにX線が入射してからパルス信号が得られるまでをモデル化・計算し,測定結果を再現するパルス波形のばらつきを得ることができた.また,クライオスタットの構造を単純化したモデルを構築して,温度0.1 K以下の領域への侵入熱を計算した.まだ自在にモデル化して計算を実施するには至っていないものの,熱計算についても目処が立ちつつある. 放射光施設でのTESカロリメータを用いた分光分析実験に参加し,実験遂行に貢献した.これにより実際の試験環境を知ることができ,計算を行なう上での参考になった.今後のX線天体の撮像精密分光観測を念頭において,搭載機器の開発や観測的研究も進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概ね予定通りには実施できたものの,2019年度の研究実施計画と比較して,2点遅れが生じた.まず,入射窓にフィルタがない系,薄いフィルタを含む系の電磁場計算を詳細に行なうことを想定していたが,中性分子計測実験でより重要である入射窓にフィルタがない系の計算を優先し,薄いフィルタを含む系についてはあまり時間を割くことができなかった.これについては2020年度に実施する予定である.もう1点,磁気シールドの試作と実験的評価を予定していたが,手持ちのクライオスタットで冷却がスムーズにできなかったこと,また年度終わりには新型コロナウイルス感染症による制約もあり,完了しなかった.磁気センサの調達等の準備は進めたので,こちらも2020年度に実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は入射窓にフィルタがない系,薄いフィルタを含む系の詳細な計算を行ない,実際に取得されたデータと付き合わせて,低周波の磁場,高周波の電磁場のセンサに与える影響を評価する.また,磁場を測定できる環境を完成させて計算結果を実験的にも検証できるようにする.このうち,入射窓に薄いフィルタを含む系の計算と磁気シールドの試作・実験的評価は当初2019年度に予定していた項目である.前者について,入射窓にフィルタがない系についてはしっかりと計算できるようになっているので,本質的な問題はないと考えている.後者について,まず2019年度に調達した磁気センサと既存の磁気シールドを使って磁場計測を実施できるようにし,その後に試作へと進む. 2019年度は放射光施設でのTES型X線マイクロカロリメータを用いた精密X線分光実験に参画し貢献できた.2020年度はこれまでの成果をもとに,中性粒子計測実験や放射光施設での実験環境での電磁場影響評価を行なう.天文観測という観点で,衛星搭載観測装置の地上試験に対して応用を試み,また精密分光観測を念頭においた観測的研究も進める.
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