研究領域 | 宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。 |
研究課題/領域番号 |
19H05193
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
中村 浩二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (00554479)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | LGAD / 増幅機能付き半導体 / TOF-PET |
研究実績の概要 |
初年度は大きく分けて二つの研究を行った。1) 新型LGAD検出器の製造 2) テストシステムの構築である。 1) LGAD検出器は表面のn+電極の下にp+増幅層を構築することで高電場領域を作り、信号を増幅し高時間分解能を達成する。高電場領域はブレークダウンを起こしやすく、電場を安定させるためのn++領域を構築することで安定化させる。電極の細密化を行う場合、従来は各電極でn+電極とp+増幅層、電極端にn++領域を作り電極ごとに独立した信号の収集を行ってきた。この場合、検出器全体に対して、増幅層が存在する領域の割合(有感領域)が非常に小さく、80umピッチのストリップ検出器の場合15%程度となる。この状況を改善するため、n+電極とp+増幅層をすべての電極で共通にして、信号の観測位置は酸化膜を介して設置されるAC電極から読み出す検出器AC-LGAD検出器を製造した。電極間の信号のクロストークが懸念事項であるが、TCADを用いた半導体シミュレーションでは、n+電極の抵抗値を10倍程度にすることでクロストークが10%以下に減らすことが可能となることが分かった。浜松ホトニクス社と共同で3種類のセンサーを製造した。a) パッド型検出器、b) ストリップ型検出器(80umピッチ) c)ピクセル型検出器(50umピッチ)。また、生命、分子イメージ、医療、産業界への応用のため、可視光の透過するポリシリコン電極の検出器も製造した。これらの検出器は2019年度末に納品が完了していて2020年度に測定を進める。 2) 従来、時間分解能を測定するためには高エネルギー粒子ビーム試験を必要としたが、ベータ線を用いて、Flash ADCで読み出しを行う簡易的なシステムを開発し、研究室レベルでの時間分解能測定に成功した。2020年度は1)で製造した新型検出器の基礎特性検査と2)を用いた時間分解能測定を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は当初の予定通りに進んでいる。新型検出器の第一弾の試作品が完成し、評価を行っている。テストシステムの開発も順調で現在までにすべての測定に必要なセットアップが完了した。一点だけ順調にいっていないものは、アンプ基板の多チャンネル化である。電極のサイズの細密化に伴いチャンネル数を16チャンネルに増倍したアンプ基板を設計しているが、10cm角の基板に16チャンネルの二段アンプを実装するとノイズの影響が大きく十分な時間分解能が達成できない。現在は4チャンネル基板を用いて測定を行っており、多チャンネル化の開発は今年度も引き続き行う。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に開発製造が完了した高時間分解能かつ高い有感領域を持つ静電容量接続型電極を持つ増幅機能付き半導体検出器(AC-LGAD)の性能検査および製造パラメータの条件を変えた検出器の製造が今年度の研究計画である。 2020年度前半は、製造した検出器の性能検査を行う。具体的には、半導体の基礎特性である電流赤外線レーザベータ線を用いた増幅率および有感領域の測定、電極間のクロストーク量の測定、ベータ線を用いた時間分解能の測定を行う。可能であれば、時間分解能の位置依存性を確認するため高エネルギー荷電粒子を用いたテストビームを行う。また、光検出用に作られたポリシリコン製の特殊電極を用いた検出器における可視光の透過率を測定し、生物や分子イメージングへの応用の可能性を確かめる。 2020年度後半は、上記の検査結果をもとに製造パラメータの条件を変えた検出器の製造を行う。昨年度製造した検出器はn+電極やp+増幅層のドープ濃度を極端に振った条件を製造したが、より安定した増幅率、低いクロストーク、高い時間分解能を満たす条件を探るため、より繊細な条件振りを目的とした検出器の製造を行う。昨年度製造したホトマスクがそのまま使えるため10点程度の条件振りが可能である。製造した検出器に対して、上記の測定項目の測定を再度行い、最も条件の良い検出器条件を探る。
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