公募研究
本研究は、ミュオン特性X線を用いた元素分析をさらに発展させて「化学効果」を利用した新しい分析の実現を目的としたものである。「化学効果」とは、負ミュオンが原子に捕獲される際の捕獲されやすさに、その原子の化学状態が影響することである。同じ元素でもその化学状態によって捕獲率が異なるので、得られるミュオン特性X線の強度に違いが表れ、元素判別のみならず、価数・電子状態の判別に用いることが可能である。さらに、本新学術領域で取り組んでいるイメージングと組み合わせ、電極面内における電池反応の不均一性や金属リチウム析出の分布を捉えることを目標としてきた。20年度は、リチウムイオン電池内の縦約3cm×横約4cmの電極の平均情報として、金属リチウム析出を非破壊で捉えることに成功した。あらかじめ異なる析出量のリチウムイオン電池を用意して、負ミュオンは金属リチウム析出面に停止するように打ち込み、得られるミュオン特性X線を測定した。測定後、各電池を解体し、電極に析出する金属リチウムを固体NMRとICP-OESで定量した。その結果、析出量と信号強度は比例関係にあることを示し、検量線を作成できた。また、リチウムを含む酸化物への負ミュオン照射実験に参加し、ミュオンの捕獲率について検討した。その結果、寿命法によって、リチウムへの捕獲率が2%程度であることが分かった。類推で、電池に含まれる被膜(リチウム化合物)におけるリチウムの捕獲率も低いと予想されるが、過去の捕獲率の研究は2元素で安定な物質に限られているので、今後実測により確かめる必要はあるが、化学効果により金属リチウム析出はリチウムイオン電池の中で、感度よく測定可能と言える。コロナの影響で予定していた実験の実施が不可能になる事態があり、予算執行が予定通りできなかったが、研究自体はミュオン特性X線のイメージングにつながる成果が得られた。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Computer Chemistry, Japan
巻: 19 ページ: 99~105
10.2477/jccj.2020-0019