研究実績の概要 |
2020年は予定通り、研究計画項目2を実施し、RNAメチル化修飾に関連するタンパク質の機能阻害実験を行い、マウス海馬の神経細胞の機能への影響をin vitroとin vivoの両方において検証した。具体的には、自発的神経活動が起きる初代培養神経細胞を用い、RNA修飾を制御する分子YTHDF1の発現レベルをRNAノックダウン技術を用いて操作し、神経の発達状況やスパイン形成、さらにin vivoでの神経発達の検証実験などを行った。その結果、RNA修飾読み取りタンパク質YTHDF1は分化後の神経細胞に高発現し、その機能欠損は培養神経細胞の中で極性、軸索、樹状突起、スパインなどさまざまな発達段階を阻害することを明らかになった。さらに、YTHDF1の機能を表出する細胞メカニズムとして、微小管末端に存在する翻訳制御タンパクadenomatous polyposis coli(APC)を同定した。RNAメチル化修飾とその下流シグナルを読み取るYTHDF1はAPC顆粒の形成に必要とされる。その欠損によるAPC顆粒の機能喪失は微小管の機能を阻害し、神経発達に障害をもたらすことを明らかにした。さらに、統合失調症および自閉症と関係するゲノム変異がRNAメチル化酵素に存在し、こちらの変異を神経細胞に導入した際に、同じに神経細胞の発達が阻害される結果が得られた(bioRxiv, 2021)。この結果から、RNAメチル化修飾の不具合が神経発達障害につながる可能性を示唆される。最後に、RNA修飾と遺伝子関連の解析ツールの開発や、脳内にあるRNA修飾の多様性とストレスによる精神疾患(PTSD)に注目した解析結果を発表した(Bioconductor, 2021; bioRxiv 2021.02.17.431575)
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