私たちは最近、マウスにおいて、淡蒼球外節部(GPe)GABAニューロンが直接聴覚皮質と聴覚視床に投射することを見出した。この新らしいGPe-聴覚系回路は、1)大脳基底核の出力核でないGPeからの直接出力、2)聴覚視床と聴覚皮質の非毛帯系部位に対する強い入力、3)大脳基底核ドーパミン系と聴覚皮質を関連づける、の観点から興味深い回路と考え、その機能および精神疾患との関連を追及してきた。聴覚におけるGPe-聴覚系回路の機能を光遺伝学と電気生理学を組み合わせた方法を用いて検討した結果、聴覚系に投射するGPeGABAニューロンを選択的に活動させると、聴覚野ニューロンの刺激変化検出能を有意に亢進させることを明らかにした。一方、GPe-聴覚系回路と幻聴との関係を探るために、幻聴のドーパミンD2仮説に従い、D2アゴニスト投与の聴覚応答に対する影響をまず調べた。結果、聴覚皮質ニューロンの活動に対するD2アゴニストの有意な影響は見られなかった。このことは、ガス麻酔を含めて複数種類の麻酔薬を試みても、変化は見られなかった。従って、幻聴のドーパミンD2仮説に従い、GPe-聴覚系回路の関与を調べることは出来ない。そのため、D2仮説の替りに、幻聴を直接捉えることを考えた。即ち、幻聴は統合失調症モデル動物にのみ見られ、対照動物に見られないとし、モデル動物において、鳴き声がない時に、他者の鳴き声に対する応答と似た活動が聴覚皮質に現れたら、それが幻聴に対応する活動と考えた。この考えを証明するために、統合失調症モデル動物の作成、自己と他者の鳴き声を区別して録音するための無線マイクシステムの開発と、自由行動下における神経活動記録システムの開発を行った。ここで提案した幻聴に対する新しいアプローチと、それを実現するための技術開発は、幻聴の神経基盤の解明に貢献するものと考える。
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