研究実績の概要 |
統合失調症や自閉スペクトラム症など、発生段階での要因が関与することが想定されている精神神経疾患の脳病理所見として、大脳皮質の微細な組織構築変化が報告されている。 本年度は、領域内の大阪大学の笠井グループとの共同研究として、微細な組織構築変化を検出するための鋭敏な方法として、FlashTag法の確立を行い、報告した(Yoshinaga et al., iScience, 2021)。この方法は、神経細胞が移動を開始する脳室面に存在する細胞のみを可視化することができるため、これまで均一と思われていたマウス大脳新皮質の部位による移動度の違いを検出することができた。また、iGonad法を用いた遺伝子改変マウスを作成し、このマウスにFlashTag法を用いて、神経細胞移動の変化や、その結果として生じる、微細な組織構築変化があるかどうかの検証を行った。これらのFlashTag法やiGonad法を用いることで、今後、遺伝要因や環境要因による、微細な組織構築変化を明らかにすることができると期待される。 さらに、倫理委員会において申請が承認されたため、領域内の東北大学・福島県立医科大学の國井グループとの共同研究として、ヒトの死後脳組織を用いて、統合失調症患者と正常対照者の脳における、組織構築の比較を開始した。それに際して、これまでに得られたヒトとマウスの脳の発生過程の比較についての知見を俯瞰した総説を執筆した(Kubo and Deguchi, J. Obstet. Gynaecol. Res., 2020)。これらの知見は、今後の研究で、発生過程における障害が想定されている精神神経疾患の病態に、微細な組織構築変化がどのように関与するかを理解する上で、有用であると考えられる。
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