本研究では、胎齢13.5日のオス胎仔生殖細胞で特異的にエネルギー代謝や物質合成が亢進していることに着目し、環境要因を介した代謝調節の変化が、オス生殖細胞系列における精原幹細胞への分化制御とインテグリティの構築において、どのような仕組みでどのような役割を担うかを包括的に解明することを目的とした。そのために、(i) 様々な環境条件でオス胎仔生殖巣の器官培養を行い、各代謝系のオス胎仔生殖細胞分化への寄与を包括的に検証した結果、セリン・グリシン・メチオニン代謝経路がオス生殖細胞の分化に重要な役割を果たすことを見出し、2020年の論文発表につながった。また、(ii) 器官培養において変化が見られたセリン代謝系にさらに着目し、主要代謝酵素遺伝子の生殖細胞特異的ノックアウトマウスにおいて、オス精巣内での生殖細胞分化に異常が認められた。さらにそれらの異常が起こる仕組みについて、(iii)セリン代謝阻害により精巣生殖細胞のエピゲノム状態が変化し、幹細胞性の上昇が見られたことから、精原幹細胞の異常増殖により精細管内での正常な生殖細胞分化が妨げられている可能性を示した。さらに、これらの精巣内での生殖細胞異常が、セリン・グリシン・メチオニンを欠損したような食餌環境でも誘発されるかを検証していく予定である。
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