1)神経伝達物質オクトパミンによる生殖幹細胞増殖制御 研究代表者らは前年度までに、交尾刺激に伴う生殖幹細胞増殖に必要な神経伝達物質を探索する過程で、オクトパミンを同定した。当該年度においては、オクトパミンが生殖幹細胞増殖に及ぼす影響をさらに追究した。この卵巣投射オクトパミン産生神経を人為的に活性化すると、未交尾個体由来の卵巣においても生殖幹細胞増殖が誘導された。逆に、オクトパミン産生神経の活動を阻害すると、交尾後の生殖幹細胞増殖が生じなかった。さらに、卵巣投射オクトパミン産生神経は、子宮で交尾刺激を受容する神経と直接シナプスを形成しており、交尾刺激は「子宮→交尾刺激受容神経→卵巣投射オクトパミン産生神経→卵巣」と伝達されることが明らかになった。加えて、交尾後の生殖幹細胞増殖にはニッチ細胞におけるオクトパミン受容体Oambが必要であり、Oambの下流では細胞外タンパク質分解酵素Mmp2が活性化され、生殖幹細胞増殖に必要なニッチシグナルが増強されることを見出し。研究代表者らはこの一連の成果を、原著論文[Yoshinari et al. (2020) eLife 9: e57101]として公表した。
2)交尾刺激による生殖幹細胞増殖を制御する複数の液性因子の相互関係 研究代表者は、腸内分泌細胞由来Neuropeptide F (NPF)、卵巣由来エクジステロイド、そして神経由来オクトパミンの3つの液性因子が、生殖幹細胞数の調節においてどのような相互関係にあるかを検討した。各液性因子の受容体を機能低下させた個体から卵巣を摘出して培養し、それぞれの液性因子を添加した際の生殖幹細胞数および生殖幹細胞でのニッチシグナル強度を調べた。その結果、NPF、エクジステロイド、オクトパミンは、並行して独立に生殖幹細胞ニッチに作用しているのではなく、相互作用には特定の上下関係があることが判明した。
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